オリジナル小説「秘密の八重歯」第一章 – 3
水面下で起こっていた火の玉争奪戦
Y氏が隕石を持って歯科技工士の元を訪れた同じころ、恋ヶ窪の森林地帯に落ちた火の玉を探して、その在り処を執拗に追っている組織があった。在日米軍である。
1945年12月の同時期に沖縄にも落下した隕石の周辺を立ち入り禁止にして管理下においた米軍は、その隕石がもっている“特殊な力”について研究を進めており、その力を軍事利用するためにも、是が非でも火の玉の行方を探し出し、それを押収しなければならなかった。その秘密作戦を実行に移す特別任務はGHQを通じて中央情報部(後のCIA)のエージェントに課されたのだった。
そんなことを露程も知らなかったY氏だが、彼のもとにもスパイの追手は忍び寄っていた。
情報部は、恋ヶ窪に落ちた飛翔体の場所に米兵よりも先に到着することのできる地元の人間をリストアップした上で、複数の探偵を雇って聞き取り調査を行っていた。その中に、国分寺で歯科医をしているY氏が含まれていた。高額な天体望遠鏡をY氏が所有している情報を入手した情報部は、火の玉が落ちた方向へと一心不乱に走っていったY氏の目撃証言も掴んでいたのだ。
当時、日本にはキヨという女性の米軍スパイがいた。英語を流暢に話せる美人の日本人女性で、財界とGHQ高官との接待の場で通訳を務めるほどの女性だった。そんなキヨに与えられた特殊任務のミッションは“放射能を含んだ危険な隕石”のありかを突き止めること。情報部からY氏の捜査資料を渡されたキヨは、すぐにY氏への接触を試みることにした。歯の治療を理由にY氏の歯科医院へと潜入する計画である。
キヨは、Y氏に怪しまれないためにも健康保険証の住所を国分寺に移そうと考えた。ある日、国分寺を訪れたキヨは、駅から徒歩7分程度の場所にあった木造2階建てアパートに空室があるのを見つけ、その一室をアジトにすることにした。Y氏の医院にも歩いて行ける距離だ。
国分寺のアジトで生活をはじめたキヨは、その翌日にはY氏の歯科医院へと向かった。それは終戦の翌年のよく晴れた2月、道端に菜の花が咲くころだった。
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