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オリジナル小説「秘密の八重歯」第一章 – 4

美人スパイと歯科医の出会い

当時、24歳だったキヨの容姿は美しく、東京女子大学の英語専攻学部を卒業して英語教師となったが、戦後の混乱で教師の仕事から離れた彼女は、その美貌と語学力を買われ銀座の高級クラブでGHQの高官(裏の顔は中央情報部のスパイ)にスカウトされ、主に財界の大物との接待の際に通訳として雇われた。

 

やがて、日本の国や社会に対して疑問を持ち、アメリカ留学という希望を抱いていたキヨの心情を察知した高官は、聡明で行動的な彼女の素質を見抜いて、彼女に諜報員として活動するように働きかけた。キヨにとって中央情報部の仕事を手伝うことは名誉なことであり、何よりもアメリカの大学への留学の夢がかなう絶好のチャンスでもあった。

 

女性スパイといえども、その素性を明かすことは絶対にできない。表向きは、GHQに雇われた通訳であり、米兵の日本語教師であったキヨにとって、はじめてスパイらしい仕事となったのが、今回の“ファイヤーボール作戦”であった。気さくで人当たりのよいキヨは、誰からも好かれる存在で独身の歯科医に近づくにはうってつけだった。

 

 

キヨは、清楚なスーツにエレガントな緑色のレインコートを着てY氏の歯科医院を訪ねた。戦中には決して出来なかったファッションで、戦後の貧しい日本では誰もがうらやむような目を引く格好である。Y氏の医院に着くと、キヨは支給されたばかりの真新しい保険証を受付に預けて受診の順番が来るのを待った。やがて自分の順番が来て、診察室に通されたキヨはY氏に向かってこう告げた。

 

「ずいぶん長い間、歯医者さんに来れなかったものですから」

「そうでしたか、では椅子を倒しますのでラクにしてください」

 

キヨの歯を丁寧に診察していくY氏はマスクをしていたが、大きく見開いた目が特徴的だった。その真摯な態度と落ち着いた話し方にキヨは好感をもった。当時の病院の医者といえば、決まって威圧的な態度で患者と接するのが普通であったが、Y氏の物腰はやわらかく、シルクに包み込まれるような安堵を感じたのだ。歯の診察を終えたY氏はうがいを促してからこう言った。

 

「虫歯はありませんが、プラークが結構溜まってます。今日はレントゲンを撮りますので、次回いらした時に取り除いてあげましょう」

「ありがとうございます」

 

キヨは、医師に微笑みかけてお礼を告げ、流麗な仕草で挨拶をしてから診察室を出ると、受付で次の受診日の予約をした。この時、病院が休みの日を確認するのを怠らなかった。歯科医院は毎週日曜日と隔週土曜日が休診日のようだった。

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