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オリジナル小説「秘密の八重歯」第一章 – 6

二人を引き合わせたライツ・ウェッツラーの銘品

Y氏が歯科技工士の作業場で1時間ほど話し合っている間、キヨはその作業場の住所と表札を手帳にメモし、GHQから支給されたレンジファインダー式のライカで建物の外観を撮影していた。キヨの家には父親の国産カメラがあって、学生時代にそれを借りて自身が属していた新聞部の写真を撮っていた経験から、レンジファインダー式カメラの操作方法は熟知していたのだ。カジュアルな服装で写真機を構えるキヨの格好は、さながら美術学校の女学生といった風情だった。

 

 

玄関の戸がガラリと開く音がして、キヨは物陰に身を隠した。Y氏は、歯科技工士と挨拶をすると意気揚々と外に出てきた。帰宅する途中、Y氏は国分寺駅近くにある瀟洒なレンガ造りの喫茶店に入っていった。Y氏は、窓際の席に着くと珈琲を注文した。喫茶店には、大きなラッパ型のホーンを備えた蓄音機があり、その装置からはスメタナの交響詩「わが祖国」が流れていた。

 

Y氏はポケットからシガレットケースを取り出すと、「金鵄」(ゴールデンバット)に火をつけ、美味そうに煙草をくゆらせた。目をつぶって音楽に身を委ねていると、突然見知らぬ女性に声をかけられた。

 

「こんにちは、先生」

「はい?」

「先日、病院で歯を診ていただいた者です」

キヨはそう言ってニコリと笑った。

 

Y氏は、すこし驚いてこう言った。

「いやあ、気が付きませんでした。ずいぶんとお若く見えたものですから」

 

「こちらの席、もしご迷惑でなければ掛けてもよろしいですか?」

「はい・・どうぞ、お座りください」

 

キヨは、喫茶店の外からY氏が席に着くのを確認後、頃合いを見計らった上で変装用にかけていたメガネを外して喫茶店に入ると、偶然を装ってY氏に声をかけたのだった。

 

キヨが手荷物のカバンを置く際に、そこから覗いているカメラを見つけたY氏は、更に驚いた口調でこう言った。

「ほう、これはライカではないですか!」

「はい、父のカメラを借りて、写真の練習をしているのです」

当時、ライカといえば、レンズ一式を含めると家一軒に等しい値段であるのは、Y氏もよく知っていた。天体観察を趣味とするY氏は、ライカと同じドイツ製の天体望遠鏡を愛用しており、ライカは憧れのカメラだったのだ。

 

「わたしも光学製品が好きで、こういう機械には目がないんですよ」

「そうでしたか、よろしければ触ってみてください」

キヨはそう言って、ライカをY氏に手渡した。Y氏は、子どものような目でライカを手にすると、レンズの焦点を合わせたり、露出やシャッタースピードを調整するなどして、しばらくその操作に没頭していた。

 

「写真を1枚撮ってもいいですか?」

キヨが笑顔でうなづくと、Y氏は入念に店内の明るさを計算したうえで露出を調整すると、目の前で微笑んでいるキヨの写真をパシャリと撮った。

 

「先生も、写真を撮られるんですか?」

「わたしが撮るのは、もっぱら天体写真のほうでして・・。といっても、わたしの機材では本格的な写真は撮れず、もっぱら星の流れを長時間露光で撮影したようなものばかりです」

「ステキですね。こんど、撮った写真を見せてください」

「はい」

 

若い女性が高額なカメラを持ち歩いているのはとても珍しいことで、しかも諜報用カメラを見つけられたのはミスだったが、思いがけずにそれがきっかけで話がはずんだのは、キヨにとってラッキーであった。二人は、喫茶店でしばらく写真や天文の話を交わした後、店を出ると国分寺の駅のほうに向かって歩きはじめた。

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