オリジナル小説「秘密の八重歯」第一章 – 7
恋ヶ窪の森林にあったクロスロード
Y氏の歯科医院は、太平洋戦争中に建った日立製作所の中央研究所近くにあった。国分寺駅の北口から研究所の脇をまっすぐ歩き、熊野神社へと続く通りにあった民家を改装して戦争間際の昭和15年に開業したのだった。
間もなく戦争の空襲で東京都心は焼け野原になり、東大和市の日立航空機変電所も攻撃対象となったが、建ったばかりの中央研究所は戦火をまぬがれ、Y氏の医院も無事であった。
国分寺駅近くの喫茶店を出たY氏とキヨは、踏み切りを越えて北口へと戻ると、日立の研究所前の道を通って歯科医院の方向へ向かって歩いた。キヨは、ふと思い出したように歩きながらこう言った。
「そういえば、昨年の12月にこの近くへ流れ星が落ちたという話を聞きました」
Y氏は、別段驚いた素振りも見せずにこう答えた。
「あれは、こぐま座流星群と言って、昨年の12月には1時間に100個以上の流れ星となってたくさん落ちてきたんですよ。もちろん、わたしも自分の目で見ました」
流れ星が落ちたというニュースは新聞でも取り上げられたし、武蔵野の住民の間でも大きな話題になっていたのだ。
「1時間に100個ですって? いくつも願い事が叶いそうな量ですね」
「過去の流れ星のデータを調べると、何年か周期で流星群が現れることは予測できるんです。昨年は、ちょうど当たり年だったということです」
「じゃあ、この辺りに落ちた流れ星もその一部だったのかしら?」
「それはよくわかりません。ただし、同じ日に流れ星を見ていた人は多かったので、火の玉がその一部だと考えるのは自然なことですよね」
「先生も、その火の玉をご覧になったんですね?」
「はい、天体望遠鏡やカメラを用意して、2階の部屋から空を見ていると一際大きな火球が落ちてくるのをこの目で確認しました」
「すごい! わたしも見たかったなぁ」
「火の玉が落ちたのは、恋ヶ窪の森林のなかで道が交差する地点のすぐそばだったんですよ。ここからも近いので、良かったら行ってみますか?」
「ぜひ、行きたいです!」
二人はそこから10分ほど歩いた場所にある恋ヶ窪の森林のなかのクロスロードへ向かって歩いた。しばらくすると、KEEP OUT(立入禁止)と書かれた看板があり、そこから先には進めないようになっていた。二人があきらめて、森林から立ち去ろうとすると、道の反対から突然米軍のジープが走り寄ってきて、MPの腕章をつけた兵士が何かを叫びはじめた。二人は、あわててその場所から自分たちが歩いて来た方へ向かって走り去った。
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