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オリジナル小説「秘密の八重歯」第一章 – 10

珈琲の甘く苦い芳香とヴァイオリンの音色

Y氏とキヨが偶然会った喫茶店(実際には、キヨが偶然を装って入ったのだが)は、国分寺駅南口にある三菱財閥、岩崎家の別荘近くにあった。入口の看板には「珈琲ボレロ」とある。二人は、この喫茶店で午後2時に待ち合わせた。

 

 

キヨは、美術学生風のボーイッシュな格好に、赤いベレー帽という出で立ちで喫茶店に入ると、前回と同じ窓際の席に着いた。キヨと同年代の女給がやって来て注文を聞く。キヨは、彼女に笑顔でこう言った。

 

「珈琲をください」

「砂糖とミルクはどういたしましょう?」

「ミルクを少しお願いします」

 

女給は笑顔でうなずくと、店主の元へと戻りそのオーダーを告げた。

戦中から珈琲は贅沢品とされ、珈琲豆の輸入は制限されていたが、個人経営のこの店では、いち早く米軍から放出された豆を闇市で入手して営業を再開していた。お店で出す珈琲は、薄く焙煎された所謂“アメリカン”であった。

 

 

店内の柱時計が2回鐘を鳴らすのとほぼ同時に、Y氏が店内に入ってきた。黒ズボンにツイードのジャケット姿の青年は、店主に挨拶すると笑顔で窓際の席へとやって来た。茶色のカメラケースを肩からさげている。Y氏は、後ろから付いてきた女給に珈琲を注文すると、キヨに向かって喋りかけた。

 

「ごきげんよう、だいぶ暖かくなりましたね」

「はい、先生も今日は薄着でいらっしゃいますね、寒くないですか?」

「わたしは暑がりでしてね、これくらいがちょうど良いんです」

 

二人の会話が聞こえたのかどうかはわからないが、店主は自慢の蓄音機でベートーヴェンのヴァイオリンソナタ 第5番 「春」をかけた。店主が竹針を交換してゼンマイを巻いている間に、女給が珈琲を運んでくれた。

 

 

Y氏は、珈琲を美味そうに啜ると、茶色の革ケースから愛用のカメラを取り出して、キヨにそれを見せた。

「わたしが使っているカメラです。ライカには及びませんが、日本の光学技術が詰まってます」

 

キヨは、そのカメラを見るなり、感嘆したようにこう言った。

「これは、兄のカメラとよく似ています。そのカメラはたしか・・ニッカだったかしら?」

「ほう、それは素晴らしい! ニッカもこのレオタックスも、日本の技術者がライカに追いつけとばかりに真似て作った傑作です」

 

 

キヨは、前回と同じようにカメラの話しに夢中になる目の前のY氏を見て、胸を撫で下ろした。カメラや天文の話しをする時のY氏は、まるで少年に戻ったかのような表情になる。診察の時に見せる医者としての落ち着いた対応とは異なるY氏のそうした一面が、キヨにとってはなぜか愛おしく感じられるのだった。

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