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オリジナル小説「秘密の八重歯」第一章 – 12

浮かび上がってきた、もう一人の男

翌々日、キヨは武蔵野大地から清流が流れる「真姿の池」のほとりでY氏から聞いた話を、細かく英文で便箋に記すと、それを封筒に入れて国分寺駅で待ち合わせていた諜報員に手渡した。その諜報員はこうした秘密文書やフィルムを専門にあつかう運び屋で、暗号化されていない文書は必ず彼らを通して届けるのが原則だった。GHQ高官は、彼らのことを“CAP”(キャリアビジョン=伝書鳩の略)というコードネームで呼んだ。

 

CAPは、封筒を受け取ると同時に、高官からの手紙をキヨに渡した。アパートへ戻ってその封筒を開けると、その手紙にはキヨが事前に送っておいた「Y氏が出入りしている町工場に関するレポート」の調査結果が英文で書かれていた。

 

 

ー この建物は、Dental Technician(歯科技工士)であるMの作業場である。通常、こうしたDental Laboratoryは、歯科医をサポートする立場にあり、通常の業務ではMのほうがYの元へと出向いて仕事を請け負うのが自然である。もし、それとは逆にYがMの元へと頻繁に出向いているようなら、通常業務とは異なる目的で会っている可能性が高い。その場合はMの動きもマークする必要がある ー

 

このレポートを読んだキヨには、思い当たるフシがあった。一昨日喫茶店でY氏と待ち合わせた際、国分寺駅とは反対の方向から彼が歩いてくるのをキヨは見ていたのだ。それは、はじめてY氏を尾行したときと同じルートであることを匂わせ、歯科技工士の作業場がその先にあるのは自明のことだった。

 

キヨは、花柄のワンピースに着替えて春物のコートを上から羽織ると、ライカと手帳が入ったバックを肩からさげてアパートを出た。行き先は、むろん歯科技工士の作業場である。まず、キヨが第一にすべきこと・・それは歯科技工士であるMを特定し、その容姿を記憶することだ。

 

国分寺駅の南口にあるMの作業場の前に着いたキヨは、変装用のメガネをかけて作業場の出入り口を見渡せる位置から張り込みを続けた。正午過ぎになると、その作業場から一人の男が出てきた。背格好は中肉中背で銀縁のメガネをかけている。雰囲気からして50代前半といったところだろうか。キヨは、男に気づかれないよう注意しながら彼の後を付けた。

 

男は、国分寺駅へと抜ける大通りの手前にある広い空地へと向かっていった。その空地には何やらガヤガヤと人が集まっている。近づいていくと、それは食料品や衣類などを売る複数の露天商と買い物客の集まりだった。山の手の闇市とは違い、それは戦前の長閑な縁日に近い風情であり、殺気立った雰囲気はない。

 

 

男は、弁当を売る小さな屋台の前で立ち止まると、そこで“にぎり飯”を買った。そして、すこし離れた休憩所らしき場所の木箱に腰掛けてそれを食べ始めた。キヨは、目立たないように集団に紛れた場所からじっと男を観察した。

 

やがて、男は立ち上がると大きく背伸びをして、ふたたび市場に戻ってきた。キヨは近くの露天商の陰に身を隠して向かってくる男の姿をカメラで数枚写真に収めた。そして、ターゲットを見失わないよう注意しながらその背中を追った。途中、顔見知りらしい人物と二言三言、会話を交わした男は空地を離れると、同じ道を通ってふたたび自分の作業場へと戻っていった。

 

男の行動からして、それは歯科技工士のMであることは間違いない。キヨは、急いでアパートへ戻り、ライカからフィルムを取り出すと、“Mらしき男の写真を写した”というメモを添えてそれを封筒に入れ、CAPに電信(電報)を送った。GHQ高官の元へとフィルムを届けるためだ。

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