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オリジナル小説「秘密の八重歯」第一章 – 15

新たなターゲットの後を追う

キヨは、Y氏宛への手紙を出した翌日には、歯科技工士Mの見張りをはじめていた。Mの動きは、住宅を兼ねているらしい作業場の外からしか見ることができない。数日間はとくに変わった動きは見受けられなかったが、それから一週間ほど経ったある日、Mがいつもの格好とは違う背広姿に茶色のカバンという姿で作業場から出てくるのを確認した。

 

「やっと、Mが動いた!」キヨは、心のなかでそう呟いて、彼の後を追った。

Mは国分寺の駅で中央本線の上り電車に乗り、空いている席に座るとカバンから書物を取り出してそれを読みはじめた。斜向いの席から目立たないようにMを見張っていると、やがて彼は本を閉じて水道橋駅で降り立った。改札を出たすぐ先には、歯科大学の校舎があった。戦後すぐに歯科医学専門学校から初の歯科大学へと昇格した名門である。

 

東京歯科医学専門学校校舎(昭和4年建築)

 

キヨは、Mに続いて校舎の中に入った。Mは階段を登っていき3階にある研究室の前でカバンから白衣を出してそれを纏うと、ドアをノックして中へと入っていった。キヨは周囲に人がいないのを確認すると、カバンからライカを取り出して研究室の名札を写真に撮った。そして、階段を降りて1階にある待合室の椅子に腰掛けてMを待った。

 

やがて30分ほど経過して、階段から降りてくるMの姿を確認したキヨは、Mに続いて校舎を後にした。Mは水道橋ではなく、辺り一面が焼け野原となった神田神保町のほうへと向かって歩いていった。Mが向かったのは、空襲による戦火を免れた神田の古書街だった。Mが古書店で見ていた本は医学と天文に関する書籍のようだ。

 

1930年当時の神田商店街。1930年「帝都復興記念帖」復興局

 

古書街でしばらく時間をつぶした後、Mはふたたび水道橋に向かって歩き、その途中にあった屋台で立ち止まると、そこで蕎麦をすすりはじめた。キヨは屋台を通り越して、水道橋の駅前でMが来るのを待った。ほどなくしてMがやって来て、中央本線の下り電車に乗ると、国分寺駅で降りて自分の作業場へと帰っていった。

 

キヨは、Mが帰宅するのを見届けてから、アパートへの帰路についた。足は自然と「珈琲ボレロ」へと向かっていき、店先でしばらく立ち止まっていたが、決心して木のドアを開けると、いつもの女給が立っていた。彼女は軽く会釈をして窓際の席へとキヨを案内してからこう言った。

 

「今日はお一人ですか?」

「はい」

「つい先ほどまで、Y先生もいらしてたのですよ」

「おや、そうでしたか・・・」

 

キヨは珈琲を頼んでから、Y氏がいつも腰かけていた席に座り直して、そのぬくもりを肌で感じた。窓の外では、新緑が日光に照らされてキラキラと輝き、スズメたちが楽しそうに飛び交いながら語り合うように鳴いていた。

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