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オリジナル小説「秘密の八重歯」第二章 – 7

近所に住んでいた“メアリー・ポピンズ”

ノエルが生まれてからのリチャード家は、激動の日々だった。リチャードは、アメリカ陸軍航空軍 (U.S.Army Air Forces; USAAF) の所属だったが、1947年9月18日にスチュアート・サイミントンの初代空軍長官への就任が承認されたことで、ノエルが生まれたころにはアメリカ空軍(United States Air Force, 略称:USAF)の中佐に昇進し、ますます忙しい日々を送っていた。

 

Photo by Museum Victoria

 

一方のキヨも、それまで所属していた中央情報部(Central Intelligence Group)が、1947年に成立した国家安全保障法により、中央情報局(Central Intelligence Agency、略称:CIA)へと改組されたことで、一段と大きな組織の一員になっていたのである。

 

表向きは、アメリカ政府の占領地域救済策(Government And Relief In Occupied Areas)によって、ミシガン大学に留学を果たしたことにはなっていたが、キヨの本当の姿は中央情報部の外国人局員である。改組されて政府内での権力が増したCIAは、キヨなどの外国人局員を早く一人前の語学教官に育てあげ、外国語を上手く話せる腕利きの国際スパイを養成することが急務だったのだ。

 

CIAから、留年せずに大学を卒業して学士号の資格をとるようにとの司令を受けていたキヨは、勉学と子育てを両立しなくてはならず、今までに経験したことがないほどハードな毎日を送っていた。リチャードが長期のドイツ駐留で家を留守にしているとき、ついに音を上げてノエルの世話をベビーシッターに任せる決断をしたのだった。

 

Photo by Kevin Gent

 

こうした事情が重なったため、ノエルは父親不在な上に留守がちな母親の元で幼年期を過ごさざるを得ない。その生いたちは、キヨが東京で過ごした幼年期とよく似ていた。裕福な家庭で育ったキヨには兄と姉がいたが、末っ子のキヨはいつも3番目の扱いしか受けられず、両親からの十分な愛情を感じずに育った。最も心を許していたのは家政婦のシズで、キヨにとってシズは母であり姉妹のように思える存在だったのだ。

 

キヨは、自分の生い立ちと同じ人生をノエルには歩ませたくなかったが、今の現状を考えれば、それはやむを得ないことだった。リチャードの実家にノエルを預けることも考えたが、それはリチャード本人が許さなかった。“子どもは母親が育てるもの”という保守的な考えにとらわれていたからだ。

 

幸い、ノエルのベビーシッターには良い女性が見つかった。近所に住むフランス系移民の娘で、ハイスクールを良い成績で卒業してベビーシッターをしていたアリスである。キヨは、大学の教員向けの掲示板でアリスのことを知り、彼女の家に電話をかけるとさっそく会う約束を取り付けたのだった。

 

ノエルが生まれた後、リチャードとキヨはアナーバーのサウスディヴィジョンストリートにある一軒家に引っ越していた。借家だったが、3人で住むには十分な広さがあり、デトロイト・ウェイン空港まで車で40分で行ける距離はまずまずの便利さだ。

 

 

アリスの家はハミルトンプレイスという住宅地にあり、サウスディヴィジョンストリートまでは歩いていける距離だった。面接の日、アリスはキヨに指定された住所の家に着くとドアのチャイムを鳴らした。間もなく、予想に反して若いアジア系の女性がドア開けたので、アリスは一瞬戸惑った表情を浮かべた。

 

「どうぞ、こちらにお入りください」

アリスは、12畳ほどの広さのリビングに通された。リビングの一角にはベビーベッドがあり、その上には赤ん坊がすやすやと寝ている。アジア系の女性はアリスにソファを勧めてこう言った。

 

「はじめまして、わたしはキヨといいます」

「はじめまして、アリスです」

 

「お住まいは、ここから近いの?」

「はい、すぐ近くのハミルトンプレイスに住んでます」

 

「ご家族と一緒に?」

「はい、もともと両親はフランスに住んでいたのですが、私が生まれるすこし前からアナーバーに引っ越してきて、わたしはこの地で生まれました。それ以来、ずっと一緒です」

 

「そうなのね、わたしは日本から2年近く前にアナーバーへやってきて、今はミシガン大学に留学中なのよ」

「それは素晴らしい! この赤ちゃんはキヨさんのお子さんですか?」

 

「そう、今年の5月に生まれたばかりの男の子」

「とてもかわいいですね、名前は?」

 

「ノエルといいます」

「ノエル? フランスではクリスマスのことをそう言うんですよ」

 

「そうね、夫とはクリスマスシーズンから付き合い始めたので、この名前にしたのよ」

「ステキですね」

 

キヨとアリスは、こうしてすぐに打ち解けた。キヨからすれば、6歳ほど離れた妹のような感じで、アリスが移民の子どもであることも親近感が湧く一因だった。

 

二人はしばらく雑談をしたあとで、翌週からベビーシッターに入るということで話はまとまった。報酬は週35ドル。当時としてはまずまずの金額だ。キヨが通学のために家を出る朝の8時半から、図書館での勉学を終えて帰宅する午後6時まで、ノエルの世話をするのがアリスの仕事だった。

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