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オリジナル小説「秘密の八重歯」第二章 – 14

黒い電話から伝えられた、思いもよらぬ出来事

キヨが横浜の米国領事館でCIAの局員たちの日本語教官に就いてから半年後となる1952年4月、最後のCIA局員が最終テストに合格したのを機に、キヨの日本での任務はようやく終りとなり、ふたたびワシントンに戻るようにとの通達がCIAから送られてきた。2週間の休暇の後、ラングレーのCIA本部を訪れるようにという内容である。

 

600形電話機(卓上型)(京都市大原小学校百井分校)

 

キヨは、その通達を読むと、米国領事館から麻布笄町の実家まで電話をかけることにした。この年から、キヨの家には固定電話が備えられていたのだった。手紙で実家の電話番号を知らされていたキヨは、電話の交換手に呼び出しを頼むと、それから1時間後に実家と電話がつながった。電話には、家政婦のシズがはじめに出た。

 

「はい、山田でございます」

山田とは、キヨの旧姓であり実家の名字である。

 

「もしもし、キヨです」

「お嬢さまですね、どうなされましたか?」

 

「お母さまに電話を代わってほしいのです」

「分かりました。すこしお待ちください」

 

数十秒後に電話に出た母に、キヨは2週間後にアメリカへ帰ることになったことを伝えた。ノエルを半年間預かってくれたことへのお礼のあとで息子の近況を尋ねると、 4月から私立幼稚園に通わせているのだという。アメリカへ連れて帰りたいというキヨの気持ちをよそに、戸籍を含めすべての手続きを終えていると一方的に告げられたのだ。

 

山田之瑛(ヤマダノエ)

 

それが、ノエルの新しい名前だった。この半年の間に、ノエルは日本人としての教育を受けながら、山田家の将来を担う跡取りとして育てられていたのだ。山田家では、見知らぬ米兵と街娼との間にできた孤児という扱いで、ノエルを養子として迎え入れる手続きをしていたのだった。

 

ケイン・デニスくん ※プリ画像より

 

キヨにとっては、思いもよらぬ話だった。この半年間、仕事の忙しさにかまけてノエルを預けっぱなしにしていたのがいけなかった。自分の我儘で日本を飛び出し、その半年後にはアメリカの軍人と入籍したキヨからすれば、母が忌み嫌っていた“戦争花嫁”の息子を、まさか山田家の養子として迎え入れるとは予想だにしなかったのである。

 

狼狽したキヨは、その翌日には実家へ帰ると母に告げて電話を切った。翌日、キヨは身支度を整えると京浜線に乗って品川へ出て、そこからタクシーで笄町の実家へと向かった。タクシーを降りて坂を小走りで駆け上がり、実家の前へ着くとキヨは急いで玄関のドアをノックした。

しばらくして、シズとともにキヨを出迎えたのは愛息子のノエルだった。

 

「ママ!」

「ノエル、元気だった?」

 

キヨはそう言ってノエルを強く抱きしめた。半年の間にノエルはみるみる成長していて、それは彼の骨格からも伝わってきた。シズは、息子への申し訳ない思いと、健気に生きているその姿を見た安堵感から自然と涙が溢れ出てきて、しばらくその場で息子を抱いたまま動けなかった。

 

部屋の中へ招かれたキヨは、シズから半年間の成長の様子を、アルバムにまとめられた写真とともに聞かせてもらった。家庭教師から日本語を教わる様子、近くの公園で無邪気に遊ぶ様子、幼稚園への入学式の際に撮られた記念写真などを見せられたキヨは、息子の成長具合に安心しつつも、すでに自分のもとから離れて日本人としての生活を歩んでいるノエルの姿を、複雑な思いで眺めた。

 

 

ノエルは、そんなキヨを見て近づいてくると、その写真を一緒に見ながら、キヨにそのときの状況を伝えてくれた。時折り英語を交えるものの、ノエルが話そうと努力しているのはもっぱら日本語である。

 

キヨは、「上手に話せるようになったね」と言いながら、ノエルの頭を撫でてあげるのが精一杯だった。その日、キヨの母は姿を見せず、父と姉も不在のままだった。シズは、息子を思うキヨを気遣いながら、キヨとノエルの様子を静かにじっと見守っていた。この二人は、シズにとっては我が子のような存在でもあったからだ。

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