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オリジナル小説「秘密の八重歯」第三章 – 4

ノエルの冒険 立川での新たな出会い

キヨの実家では、姉夫婦の赤ん坊が10月に誕生した。山田家にとって念願の男の子である。義兄は結婚を機に務めていた会社を辞め、4月から実家の印刷会社の取締役に就任し、経営から家督までのノウハウを少しずつ伝授されていた。近い将来、父に代わって4代目の社長に就任するのは間違いない。姉夫婦に長男が生まれたことで、山田家の跡継ぎをめぐる悩みは解消されたも同然だった。

 

その赤ん坊は、シンジと名付けられた。名付け親の祖母にとっては、戦争で亡くなった息子の生まれ変わりとして、将来の山田家を背負って立つ人間になってほしいという思いからの命名だろう。

 

戦後の立川基地 ゲート付近

 

幼稚園時代の3年を過ごした山田家はノエルにとってもなつかしい家である。アメリカンヴィレッジに引っ越してからも東京方面へ行く度に泊まりに行きたいとねだることがあった。ノエルをいちばん温かく迎えてくれたのは家政婦のシズだった。しかし、7歳年下の従兄弟が大きくなるにつれて、祖父母の可愛がりようがあきらかに自分とは異なると感じたノエルは、次第に不条理を感じるようになった。それは、キヨが幼い頃から抱いていた兄姉への嫉妬心とよく似ていた。

 

そんなこともあり、ノエルは次第に山田家から遠ざかるようになっていく。ノエルは自分の居場所を探してヴィレッジを探検するようになった。自転車に乗れるようになってからは、テリトリーはさらに広がってヴィレッジの外まで及ぶようになる。そして、小学生のノエルにとって、その後の彼に大きな影響を及ぼす出来事が起こった。

 

1961年に開業した「立川銀座デパート」(写真右側) ㈱いなげや 所蔵

 

立川の駅前にできたデパートへとスクールの友人と自転車で出かけたノエルは、その地域で悪童として鳴らしていた少年Sと出会うのである。少年Sは地元の仲間たちと同じデパートへ来ていた。その屋上にあったピンボールマシンをめぐって、ノエルと少年Sのグループが喧嘩になったのだ。ピンボールマシンで遊んでいたノエルに向かって、少年Sは近づいてくるなりこう言った。

 

「おい毛唐、そのゲームはオレたちのもんだ。そこをどいてもらおうか」

ノエルはおどろいて少年Sを見た。色白でとてもケンカは強そうには見えない。ノエルは顔をしかめてこう言い返した。

 

「嫌だね、いまは僕たちが遊んでるんだ。終わってからにしてよ」

ノエルがそう言うと、少年Sは仲間と目配せをしてからノエルに視線を戻すと号令をかけた。

 

初期型のアメリカ製ピンボールマシン http://showa-love.jpより

 

「やっちまえ!」

その号令が出るやいなや、ノエルは少年Sたちに無理やりゲームから引き離されて彼らから暴行を受けはじめた。それを見て驚いたノエルの友人は、警備室へと走っていってガードマンを連れてきた。その場はそれで収まったが、自転車で帰り道についたノエルらを追うように、少年Sたちも自転車で後をつけてきたのである。

 

ノエルがアメリカンヴィレッジへと帰っていくのを見届けた少年Sは、仲間たちにこう言った。

「あいつを子分にしよう」

 

アメリカンヴィレッジは、占領国である米軍立川基地の居住区である。そこには簡単に立ち入ることは出来ない。それでも、少年Sはあきらめなかった。ノエルに照準を合わせたのには理由があった。彼は日本語を話せたからだ。ノエル以外の少年たちは英語しか喋らなかったが、ノエルだけ日本語を上手に話せるのをSは見逃さなかったのだ。

 

少年Sにとって、日本との戦争に勝ち、自分たちとは比較にならないほど裕福に見えるアメリカはあこがれの国だった。立川の繁華街や赤線地帯を我が物顔で闊歩するGIたちには、日本の法権力が及ばないのも知っていた。犯罪を犯しても罪を問われない彼等の息子を仲間にすれば、これ以上強い味方はない・・それがSの思惑である。

 

昭和40年代 白バイ警官 狭山市 所蔵

 

少年Sがこうしたことに詳しかったのは、自分の父親が警察官だったことが大きかった。いつの日か、白バイ警官となった父親が晩酌をしているとき、スピード違反をする米軍関係者のクルマを取り締まれないのが無念でならないと漏らしたことがあった。それを聞いたSは、父にこう質問した。

「なぜ、取り締まることができないの?」
「それはだな、つまり・・あいつらにとって日本は占領国だ。どんな罪を犯しても、日本の法律で裁かれることはない。あいつらは日本に住んでいながら、てめえらの国に守られているのさ」

 

警察官の父は、酔うとこうしてべらんめえ口調になる。叩き上げの警察官特有の喋り方だ。普段は厳格な父親で、少年Sは厳しく躾けられてきた。一方の母は、父とは正反対に過保護なくらいにSを甘やかせてきた。彼は、そうした両極端な環境で父と母に育てられてきたのだ。

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