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オリジナル小説「秘密の八重歯」第三章 – 7

大切に保管されていた黒海の真珠 オデッサ

キヨとノエルは、国分寺駅北口にあるY氏の歯科医院の前でタクシーを降りた。はじめてキヨがこの場所を訪れてから12年の年月が経つが、住宅が増えてはいるものの大きな変化はない。キヨとノエルは、歯科医院の門扉を開けて敷地内に入ると、玄関の呼び鈴を鳴らして院内へと入った。待合室には患者が2名座っている。しばらくそこで待っていると順番がまわってきて、キヨとノエルは診察室へと入っていった。

 

「先生、お久しぶりです」

その声に、Y氏は驚いてキヨを見た。キヨの横には、小学生くらいの男の子が立っている。

 

「いやぁ・・キヨさんではないですか! 今日は、どうされましたか?」

「息子のノエルが、先週から歯が痛いというので、連れてきたんです」

 

Y氏は、感慨深げに目の前の母子を見つめてから、ノエルを治療台へ座るように促すと、キヨには後ろの席で待つように告げて診察をはじめた。

 

昭和の歯科医院 パール歯科医院 所蔵

 

「大きく口を開いて」

ノエルは、言われるままに口を大きく開けた。

 

「痛いのは、この歯かな?」

ノエルがうなずくと、Y氏は歯科助手を呼んでレントゲンの準備をするように告げた。ノエルは治療台から歯科用撮影装置のある部屋へと移動してX線写真を撮ってもらった。

 

診察が終わると、Y氏はキヨのほうへと歩みよってきてこう言った。

「上の歯の犬歯、前歯から2本隣の歯の裏に穴が空いてます。虫歯です」

「やっぱり、そうだったんですね」

 

「今日は、歯を消毒してプラークを取り除いておきます。レントゲン写真があがって、歯の付け根などを確認してから虫歯の治療をしていきましょう」

「わかりました、ありがとうございます」

 

「念のため痛み止めの薬を出しておきます。もし、歯が痛むときは飲ませてあげてください」

「はい」

 

キヨは、丁寧にお礼を言ってノエルと一緒に診察室を出た。忙しそうな院内のことも踏まえて、私語は控えようと思ったからだ。その日の夜、Y氏からキヨの元へと電話がかかってきた。あらためて話がしたいので、どこかで会えないかということだった。キヨは、翌日の夜にY氏と国立で会う約束をした。

 

昭和40年代の国立駅前 くにたち郷土文化館 所蔵

 

翌日、キヨは勤務地のある虎ノ門から地下鉄を乗り継いで、国鉄の国立駅の改札口へと向かった。Y氏はすでに改札口で待っていた。約束の時間に落ち合った2人は、駅前のフルーツパーラーへと入っていき、空いている席に座ると紅茶とケーキを頼んだ。

 

「昨日は、突然お邪魔してしまい、失礼しました」

「いやあ、いいんです。それにしてもノエルくん、あんなに大きくなっていて、びっくりしました。何年生になるんですか?」

 

「アメリカンスクールの4年生になります」

「もうそんなになるんですね、ついこの間まで幼稚園児だと聞いていたのに」

 

「一緒にいると、成長していることには気づかないものですから」

「もう、すっかり男の子らしくなってましたよ。頼もしいではないですか」

 

「ああ見えて、結構甘えん坊なんです。私にとってはまだ子供です」

キヨがそう言うと、Y氏は笑顔を浮かべてうなずいてからこう言った。

 

「実は今日、キヨさんに見せたいものがあって昨夜電話したんです」

「なにかしら? 楽しみです」

 

 

Y氏は、革のショルダーバックから宝石箱のようなものを取り出すと、それを開けて見せた。

 

「これが、例の隕石なんです」

キヨは、ハッとした顔になってその中身をしげしげと眺めた。

その物質は、手のひらに載るくらいの大きさで、金属の鉛のように見えるが不思議な光を放っているように見える。キヨは、しばらくその物質を見つめたあとでこう言った。

 

「触ってみてもいいですか?」

Y氏がうなずくのを見て、キヨは隕石を手のひらに載せてみた。大きさから想像するよりはるかに重く、すこし温かい。見た目は金属のように無機質だが、手で触れるとまるで生命を宿しているかのような波動が感じられる。

 

 

「何でしょう・・この石には不思議な力を感じますね」

キヨがそう言うと、Y氏は大きくうなずいてからこう言った。

 

「これは、鉄隕石というもので、全体が鉄ニッケル合金で組成されています」

「鉄の隕石ですか?」

 

「そうです。キヨさんに見せたくて、ずっと保管してきました」

「わあ、うれしい! わたしも手紙をいただいてから、一度見てみたいと楽しみにしてたんです」

 

「それで…この隕石を、ぜひノエルくんの歯の治療に使ってみてはどうかと思いまして」

「ノエルの歯に・・?」

 

「はい、通常なら虫歯には銀歯の素材を使うのですが、専門の大学で調べてもらったところ、どうやらこの隕石は丈夫な上に腐食にも強く、虫歯治療においてこれ以上の素材はないとのことです」

「でも…そんな貴重なものを、先生よろしいのですか?」

 

「はい、いつかは歯の治療に役立てたいと思って大事に保管してたのですが、なかなか使う機会がなくてそのままにしていました。でも、キヨさんの息子さんには、ぜひこの隕石を使って治療してあげたいと思ったのです」

 

キヨは、Y氏の熱意に押されるように、その提案を受け入れることにした。思いがけない話ではあったが、Y氏との出会いもこの隕石がなければもたらされなかったことだ。そこに運命的な何かを感じないわけにはいかなかった。

 

キヨとY氏は、その後しばらく談笑してからお店を出ると、国立駅のホームで互いに反対方向の電車に乗るとそこで別れた。

 

昭和の総武線車両 ※ウィキペディアより

 

それから2週間後、Y氏の歯科医院へ母に連れられて行ったノエルは、虫歯のある八重歯を削ってもらい、そこに詰め物をしてもらった。自分の歯に詰められた少し温かみのある金属は、とても強固で力強く感じる。治療が終わってから、久しぶりに強く歯を噛んでみたが、まったく痛みは感じられなかった。

 

「どう、噛んでみて痛みはない?」

「はい」

 

「少しの間は、違和感があると思うけど、だんだん馴染んでくるからね」

Y氏は、そう言って虫歯の治療を終え、後ろの席で見守っていたキヨに向かってくると、こう言った。

 

「すべて、上手くいきました。今日から、普通に食事をしてもらって構いません」

「ありがとうございます」

 

「それから、少しでもなにか異常を感じたときは、すぐに連絡してください。優先的に診るようにしますので」

キヨは、安堵の表情を浮かべて、もう一度丁寧にお礼をした。

 

こうして、宇宙から運ばれてきた不思議な力を持つ隕石の欠片は、少年ノエルの八重歯に埋め込まれたのだった。

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