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オリジナル小説「秘密の八重歯」第三章 – 10

メンフィスで浮かんだ大きなヤマ

少年Sとノエルの愛読書となっていた雑誌「ボーイズライフ」に、大藪春彦のハードボイルド小説『血まみれの野獣』の連載がスタートしたのは、1968年1月のことだった。恋人との離別や両親の自殺、レース界追放といった不幸にあったオートバイの元レーサーが社会に復讐する物語である。

 

この時、ノエルはすでに19歳、少年Sは18歳になっていた。ノエルはアメリカンスクールを卒業したが進学せずにレーサーを目指してレーシングチームで修行を積んでいた。一方の少年Sは私立高校を2年で中退して立川グループの中枢にいた。しかし、2人の結束は固く、別々の道を歩んでいるように見えても、週に一度は「メンフィス」で会って近況を話し合う関係は続いていたのだ。

 

血まみれの野獣 大藪春彦 新潮文庫

 

ボーイズライフに連載されている『血まみれの野獣』を熱心に読んでいたのはノエルのほうだった。主人公の元レーサーを自分に照らし合わせていたこともある。ある時、ノエルはメンフィスに来る前に書店で買ったボーイズライフを差し出して、Sにこう言った。

 

「この小説の主人公はバイクの元レーサーでね、しかしある時、爆弾を使って擬装したパトカーで現金輸送車を襲って大金を強奪するんだ」

その話を聞いたSは、一瞬真顔になったかと思うと、少し間を置いてからこう言った。

 

「それならオレたちにも、できるんじゃねえか?」

「まさか・・パトカーなんていくらなんでも無理だろう」

 

「いや、白バイを使うのさ」

「白バイ?」

 

「ああ、バイクの塗装なら前にもやったことがある。うまく塗れば、ちっとは本物に見えるにちげーねえさ」

「なるほど・・」

 

その時、常連のセンパイOが2人の横を通った。Oは、店のカウンターでビールを受け取ると、2人のいる席の隣に座って話しかけてきた。

 

「やあ、2人とも元気か? 何の話してたんだ」

ノエルとSは、顔を見合わせて黙り込んだ。

 

「ちょいと話が聞こえたぜ、白バイがどうのこうのって言ってたな」

「・・・」

 

「まあ、何か困ったことでもあったら、オレに相談してくれよ。いつでも話を聞いてやるぜ」

Oはそう言って少年Sの肩を叩くと、オーナーのいるカウンター席に移っていった。

 

「どうする?」

ノエルがそう聞くと、少年Sは小声で答えた。

 

「うん、この話はまだ秘密だ。ただ、グループの連中を巻き込むくらいなら、あのオッサンに手伝ってもらったほうがイイ気もする。そんなときゃあ、相談するのもアリだな」

「しかし、あのオッサン、一体何者なんだかよく分からないぜ」

 

ノエルがそう答えると、Sはうなずいて「ちょっと外で話そうか」と言うと、2人分の会計を済ませて先に店を出ていった。ノエルは、こちらを見ていたセンパイOに挨拶すると、Sの後を追って外に出た。2人が去った後のテーブルには、「ボーイズライフ」が残されていた。

 

ボーイズライフ 1968年 2月号 小学館

 

少年Sは、外を歩きながら話を続けた。

「あのオッサンの正体についてだが、どうやら賭博師らしいぜ」

「賭博師?」

 

「ああ、賭け事ならなんでもやるっちゅう噂だ。特に強えのは競馬とパチンコらしい」

「競馬とパチンコかぁ」

 

「そう、店のマスターから聞いた話では、競馬で大穴を当てて、当分食うには困らねえそうだよ。噂によると、500は取ったらしいぜ」

「なんだって!?」

 

「だから、カネは持ってる。今回の計画を実行するには、ある程度のカネも必要だろう?」

「そうかもしれないな」

 

「さっきの小説の話だが、その現金強奪についての話をこんど詳しく教えてくれよ」

その時、ノエルは喫茶店に雑誌を忘れてきたのを思い出した。

 

「そういえば、雑誌をメンフィスに忘れてきた。オレは店に戻るから、また近いうちに会おうぜ」

ノエルは、そう言って少年Sと別れた。

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