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オリジナル小説「秘密の八重歯」第三章 – 16

小さなヤマのあとの美酒に酔う

次の日曜日、ノエルと少年S、グループのKとHの4人は、立川のジャズ喫茶の前で落ち合うと、夕方の時間にスーパーIYへと向かった。発煙筒はHが持ってきたものと合わせて2本ある。前日の土曜、Kと2人で電車の運転台から盗んだものらしい。発煙筒に火を付けて店員を脅す役はH、レジの売り上げ金を奪うのはK、2人を援護するように背後で見張るのはノエルと少年Sが担当することになった。

 

スーパーの閉店を告げるBGMが流れ始めるのを合図に、レジの回りには4人の少年が集まった。日曜日の閉店間際ということもあり、買い物客はすでに疎らだ。レジの近くで様子をうかがうKとHに対して、ノエルは2人を脇からコントロールするように心のなかで念じた。レジに並ぶ客が途絶えた瞬間を見計らって、ノエルは心のなかで叫んだ。

 

 

「今だ!」

その瞬間、Hが発煙筒を着火させてレジの店員に向かってこう言った。

「ダイナマイトだ。爆発するぞ」

 

恐怖の顔をして怯える中年女性にその場を離れるように促すと、Kがレジカウンターに入って、売り上げ金の現金を掴み取ると、Kは急いで外へと逃げ出した。もう1本の発煙筒を手に持って、後ろを牽制しながらHもその後を追うようにして逃げた。時間にして、1分足らずの出来事である。

 

スーパーの警備員がレジに到着したときは、すでに2人は逃げたあとだ。周囲には異様な発煙筒の赤い煙と騒然とした雰囲気だけが漂っていた。ノエルと少年Sは、何食わぬ顔でその場を離れると、野次馬を装いながらスーパーの入口付近でしばらく見守ってい様子を見ていた。ノエルのズボンのポケットの中ではストップウォッチが時を刻んでいる。しばらくして、パトカーがサイレンを鳴らしながら現場に到着した。事件発生から、警察が到着するまでの時間は11分50秒だった。

 

ノエルと少年Sはそれを見届けると、事前に集合場所と決めていた福生のゴーゴー喫茶へと向かった。店内に入ると、ストロボ照明に照らされて、ミニスカートにロングブーツの派手な格好をした少女たちがお立ち台で踊っている。2人の姿を見つけると、興奮した面持ちでKとHが近づいてきて出迎えた。

 

1968年 赤坂ゴーゴークラブ「マノス・ディスコ」専属ゴーゴーガール

 

4人は、ハイタッチを交わしてビールで乾杯した。強奪した金額は全部で12万7千円。4人でヤマ分けしても3万円以上になる。当時の大卒初任給に等しい金額だ。4人の少年たちは、はしゃぎながら酒と音楽に酔いしれた。やがて、楽しそうに盛り上がっているノエルと少年Sに、さっきまでゴーゴーを踊っていた少女たちが話しかけてきた。

 

「さっきから、アンタたち派手に飲んでるじゃない?」

「派手に飲もうが遊ぼうが、オレたちの勝手だろ」

 

Sがそう言うと、ノエルはそれを宥めながらこう言った。

「良かったら、一緒に飲むかい」

「わ〜 ステキ、お兄さん奢ってくれるの?」

 

ノエルは、少女2人を空いていたテーブル席に誘うと、Sもそこに呼んで酒をオーダーしに行った。

「今夜は、朝まで飲み明かそうぜ!」

酒を持って戻ってきたノエルがそう言うと、少女2人は狂喜して乾杯した。

「なに、このお酒? おいしい」

「カンパリソーダだよ。これも飲んでみるか?」

「うん」

 

ゴーゴー喫茶に集う若者たち。1968年『アサヒグラフ』より

 

ノエルが飲んでいたジントニックを渡すと、少女2人はそれを回し飲みしてから、ふたたびダンスフロアへと踊りに行った。“一緒に踊ろうよ”と誘われたが、後で行くよと言って見送ったノエルは、楽しそうに踊り続ける少女たちをしばらく見つめていた。

 

その様子をとなりで見ていたKとHがテーブル席へとやってきた。

「あの2人、なかなかイカしてるじゃないか」

「うん、米兵目当ての商売女かと思ったが、そんなタマでもなさそうだ」

 

Hの質問にそうノエルが答えると、さっきから黙っていたSが口を開いた。

「オレは、ああいう女たちはタイプじゃねえ」

少年3人は、目を合わせながらすこし笑った。強がって硬派な素振りを見せるSの態度が可笑しかったからだ。

 

ノエルは、踊っている少女たちを見ながら、Sに話しかけた。

「オマエ、女に興味ないのか?」

「いや、あるよ。ただ、年下や同世代には興味ねえ……年上の女じゃないとな」

 

「そういうことなら、安心したぜ」

ノエルはそう言い残すと、ダンスフロアで少女たちと混じって踊りはじめた。いつの間にかKとHもそこに混じって踊っていた。こうして、少年4人と少女2人は、朝方までその店で飲み明かした。

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