Akasaka Base|オリジナルのオーディオ製品とアメリカ雑貨 アカサカベースでは、オリジナルの高品質なサウンドグッズ(スピーカー、アンプ等)、 トーマ・キャンベルがデザインした世界に例のないアイデアを活かしたメディアアートをはじめ、 大人の秘密基地にふさわしいアメリカ雑貨やコレクターズグッズなどをセレクトして販売しています。

オリジナル小説「秘密の八重歯」第四章 – 3

3人によるはじめての秘密工作

Oを始めとする3人の入念な準備のうちに、4回目の多摩農協脅迫事件が1968年6月25日に実行されるが、その直前となる6月20日に府中火葬場の裏の空地にあったバス会社の小屋が放火されて全焼する事件が起こった。その翌日の6月21日には、多磨霊園のなかでツツジが焼かれる不審火も確認されている。20日の小屋の放火は少年Sが、21日の不審火はノエルが行った。Oの司令によって2カ所の放火場所は細かく指示されての犯行である。

 

25日の犯行前に、3人は時限爆弾でこれらの放火をほのめかす怪文書を多摩農協とは別の場所へ置く計画を立てていた。朝日新聞2紙に赤いクレヨンで書かれたその怪文書を多磨霊園に隣接する府中市紅葉丘の周辺2カ所に置くのはノエルが行うことになった。この新聞紙の脅迫文を書いたのは主犯のOである。

 

府中市紅葉丘でかつて開業していたY歯科医院の建物

 

1紙は民家の板壁に画鋲で貼り、もう1枚は周辺にある“Y歯科医院”の郵便受けに早朝の時間帯に投函したのだ。朝日新聞の2紙には、時限爆弾を使って放火をほのめかす文章と、“よこすか線はひきょうもん”という文句が使われていた。以下は、その文面である。

 

ー「おれが 十四日朝 れい園のつつじに 火をつけ 二十日夜も かそうばのうらに 火をつけた うまくいったからには 今度 こそ 人のうちを でっかくやる しょうぼう所と はなれた もみじがおかとか かそうばの うらのほうと アメリカぐんの 近くでやる しょうぼう自動車がくるには 火がまわる 計画的だ おれの発明した 時限ばくだんで 今朝の九時か十時ごろ 火がつくようにする よこすか線はひきょうもんだ おれは ばかではないから さがしても むだです しもんも つけないから つかまらない」ー

 

一方の農協への脅迫状もそれまで通りにO自身が書いた。現金400万円を農協職員が乗ったクルマで指定されたコースを通ってある場所に持ってこいという内容である。この手紙は、東府中駅前の府中ガス本店前にあった緑色のゴミ箱の下に置かれた。

 

府中ガス本店には2つの電話番号が看板に記されていた。上は店の番号、下は営業所長の自宅の番号である。本店に2つ番号があると思ったSは、下の番号をメモしてセンパイOに渡していた。

 

当初は、多摩農協の様子をクルマから見張る予定だったが、横須賀線爆破事件直後ということもあり、捜査網が広がることを警戒したOは、農協を見張る計画を断念した。その代わりに、多摩農協から現金を持った職員が現金受け渡し場所へと出発するのとほぼ同時に、国分寺の日本信託銀行から出発する現金輸送車を2人で追尾する計画へと変更したのだ。

 

農協への脅迫電話はO自らが公衆電話からかけた。Sが手紙を仕掛けた緑色の箱がある府中ガスへの電話である。しかし、朝の7時45分に電話が鳴ったのは、営業所長が出かけた後の自宅のほうだった。所長の妻が電話に出ると、Oは落ち着きはらった声でこう言った。

 

「お宅の家の前に緑色の箱があるでしょう。その箱の名札のところに手紙があるから、それを農協に届けてくれ。日東ハイヤーでね。届けないと、お宅にどんな迷惑がかかるかわからないぞ」

 

電話に出た主婦が「緑の箱などない」と言うと、電話の主は声を荒げてこう言った。

「そんなことはない、あるはずだ」

 

その後、電話ではしばらく無言の状態になったが、電話の主は相手の様子を探るように黙って数十秒間そのまま電話を切らずにいたという。その落ち着いた応対や声の様子から、相手は若くないと彼女は思ったらしい。電話を切った主婦は、すぐに本店にいる夫へ電話をして報告すると、夫は本店前にある緑のゴミ箱を確認しに行った。そこには、犯人の言う通り手紙が置いてあった。

 

それからすぐに、警察へ110番通報をしたものの、警察官が所定の場所に配置されたのは、予定より1時間半も後のことだった。その間、府中警察の無線を傍受していたOは、警察にまったく動きがないことから、4回目の多摩農協への脅迫は計画通りに進まなかったことを悟っていた。

 

多摩農協への脅迫文が置かれていた「府中ガス本店」(府中市清水ヶ丘)前の「みどりの箱」 Photo by Takahasi Tomoyuki

 

一方、そんなことは知らないノエルとSは、9時10分頃に日本信託の国分寺支店を出た黒いセドリックから降りた3人の行員が、向かいの三菱銀行から3つのジュラルミンケースを運び出して現金輸送車のセドリックのトランクへそれを載せてからクルマをスタートさせるのを見届けた。セドリックを追って現金輸送コースをクルマで追う。現送車に乗っていたのは、運転手と資金係長、財務相談係2名の4人である。

 

4人が乗ったクルマは、国分寺駅の手前を左折すると、国鉄の中央本線のガード下を潜って国分寺街道を直進していく。南町交差点をさらに直進したクルマは、やがて東本町交差点を通って明星学苑前の交差点を右折して学園通りに入った。学園通りを直進したクルマは、府中刑務所の塀沿いを走っていき、府中街道を越えると目的地の東芝府中工場へと入っていった。

 

現送車のルートと行員の人数、特徴を記憶したノエルとSは、乗っていたスカイラインを国立方面へと切り返し、センパイOの自宅へと向かった。Oが自宅へ戻ってきたのはそれから30分ほど経ってからだった。Oは、帰ってくるなり多摩農協(府中ガス)への脅迫が予定通りにいかなかったことを2人に告げた。

 

「どうもおかしい、電話をすると主婦が出て、店の前には緑の箱などないと言うんだ。あの番号、確かに府中ガスのものだったろうな?」

「間違いありませんよ・・ただ、店の看板には電話番号が2つ書かれてました」

 

Sがそう言うと、Oはこう訊ねた。

「あの番号は、そのうちの1つということか?」

「はい」

 

「なるほど、それなら思い当たるフシはある。ガス会社を選んだのは緊急連絡がつくからだ。朝の7時でも、電話がつながると思ってのことだ。その番号というのは、責任者の自宅の番号のほうだったんだな・・・ということは、警察では今ごろきっと忙しく動いてるこったろう」

 

Oは、2人を庭に連れ出して愛車のスカイラインGT-Bへと導いた。クルマの中には、無線機が装備されている。Oは、2人を後部シートに座らせて無線機のスイッチを入れた。チューナーを調整すると、間もなくして警察無線の音声が聞こえてきた。クルマの時計は9時45分を指していた。

 

府中市白糸台にある多摩農協脅迫事件の舞台となった場所。現在は、敷地が拡大されてJAマインズの大きな施設となっている。

関連記事

Akasaka Base|オリジナルのオーディオ製品とアメリカ雑貨

Akasaka Base|オリジナルのオーディオ製品とアメリカ雑貨

アカサカベースでは、トーマ・キャンベルがデザインした世界に例のないユニークなアイデアを活かしたサウンドグッズをはじめ、大人の秘密基地にふさわしいアメリカ雑貨やコレクターズグッズなどをセレクトして販売しています。

屋号 Akasaka Base
住所 〒107-0052
東京都港区赤坂7-5-46
電話番号 03-3584-0813
営業時間 13:00〜18:00
定休日:土日祭日
代表者名 前嶋とおる
E-mail info@akasakabase.com

コメントは受け付けていません。

Akasaka Base|オリジナルのオーディオ製品とアメリカ雑貨 アカサカベースでは、オリジナルの高品質なサウンドグッズ(スピーカー、アンプ等)、 トーマ・キャンベルがデザインした世界に例のないアイデアを活かしたメディアアートをはじめ、 大人の秘密基地にふさわしいアメリカ雑貨やコレクターズグッズなどをセレクトして販売しています。

〒107-0052 東京都港区赤坂7-5-46 #101

TEL:03-3584-0813

営業時間:13:00〜18:00
定休日:土日祭日

MAPを見る

Notice 工房へいらっしゃる場合は、事前にメールか電話で連絡の上お越しください。