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オリジナル小説「秘密の八重歯」第四章 – 4

緊張から解き放たれた色恋のひととき

センパイOは、無線機のボリュームを上げた。間もなくして、警察無線の司令室らしき場所からの声が聞こえてきた。

 

ー「警視庁から府中署、応答願います」
ー「こちら府中署、どうぞ」

 

ー「白糸台の多摩農協で脅迫事件が発生、現金四〇〇万円を積んだクルマを多摩川方面へ向かって走らせろという内容。今すぐ農協の資金係へと急行してほしい、どうぞ」

ー「府中署、了解。直ちに向かいます、どうぞ」

 

警察無線の音声を聞いて、ノエルとSは驚いた。あまりにも手にとるように無線を聞き取れたからだ。

 

ー「警視庁から、東府中PB(交番)へ。多摩農協への脅迫電話が府中ガス本店にあり。直ちに現場に急行して事情を聴取されたり、どうぞ」
ー「こちら東府中PB、了解」

 

短波の警察無線機 真空管式(昭和30年代)

 

警察無線は、ここからしばらく音信が途絶えたが、次は多磨霊園近くの壁新聞に関する無線が飛び交いはじめた。3人は、しばらくクルマの中で無線を傍受し続けた。府中警察の動きを確認したOは、ノエルとSにふたたび部屋へ戻るように促してクルマから2人を降ろした。そして、自分もクルマから降りてからこう言った。

 

「予定よりだいぶ遅れはしたが、脅迫は思惑通りに府中署に伝わったようだな」

「そのようですね」

 

3人は、ふたたび居間のソファに腰をかけた。Oは、煙草に火を付けて一服してからこう言った。

「そういえば、現送車のほうはどうだった?」

「はい、9時10分頃に日本信託から黒いセドリックが出てきて、向かいの三菱銀行から行員たちがジュラルミンケースを運び入れてからクルマが動き出しました」

 

ノエルがそう答えると、Oは“うん”と大きくうなずいてから話の続きを聞いた。

「現送車は国分寺街道を直進して、学園通りを右折後、府中街道を越えて東芝府中工場へと入っていきました」

「行員は運転者を入れて4人か?」

「そうです」

 

「いつもと変わりは無いようだな。今後は、4人以外の男が乗車しないか、特に注意をしてほしい。見慣れない男が乗っていたときは、東芝から現送車が出てくるのを待って更に追尾するんだ。もし、私服(刑事)が乗っていれば、クルマはそいつを署まで送り届けるか、近くの駅前で降ろすはずだ」

 

ノエルとSは、納得したようにうなずいた。Oは、さらにノエルを見てこう聞いた。

「それから、新聞のほうはうまくいったか?」

「はい、一つは民家の板壁に貼りました。誰にも見られてません。もう一つは、近くの“Y歯科医院”の郵便受けに入れました。まだ、新しくてきれいな歯医者です」

 

ノエルがそう言うと、Oはご苦労さんと言ってからこう話した。

「府中署では、多摩農協と放火事件の捜査で今も忙しく動いているはずだ。なにせ、横須賀線爆破事件の後だからな。新聞には、赤パステルで時限爆弾のことも書いておいたから、相当ピリピリしてるだろうよ」

 

Oはそう話すとニンマリと笑って、次の計画についての話をした。

「次回は、7月25日にやる。2人には、もう一度“日託”の現送車を追ってほしい。脅迫状と電話の方は引き続きオレが担当する」

「了解です」

 

2人はそう言って、Oの家を後にするとクルマで立川方面へと走り出した。信号待ちの途中、Sはノエルにこう言った。

「久しぶりに、メンフィスにでも行こうか?」

「ああ、いいよ」

 

 

クルマを裏道に駐めて喫茶店メンフィスに入った2人は、オーナーにビールを頼んだ。席に着くなり、Sはノエルにこう言った。

「今日はオレが奢るよ。実は、昨日の夜にグループの仲間3人と錦町でカツアゲをしたんだ。相手はサラリーマンだった。抵抗したからちょいと痛めつけてやったが、最後はおとなしく5千円払ったよ」

「本当か? そろそろ、オレたちも大きなヤマを踏むんだから・・気をつけろよ」

 

「分かってるさ、つまんねえドジは踏まないから安心しろ」

Sはそう言ってほくそ笑むと、ポケットからハイライトを取り出して火をつけた。

「オマエも吸うか?」

 

ノエルは、うなずいて同じようにハイライトに火をつけた。

「見慣れないマッチだな?」

 

ノエルがそう聞くと、Sは笑いながらこう言った。

「競馬場へオッサンを迎えに行った日に、ヤツが置き忘れたマッチだよ」

そのマッチには、“喫茶チェリー”と書かれていた。

 

煙草を吸いながら、ノエルはその日の朝から自分が行った行動を頭のなかで反芻していた。無造作に怪文書を投函した歯科医院のことが何となく気になっていたのだ。ノエルは、小学生のころに母のキヨに連れられて行った国分寺の歯医者のことを思い出していた。確か、あの歯医者もYだったな・・・。

 

そんな物思いに耽っていたノエルを現実の世界に引き戻したのは、聞き慣れた少女たちの声だった。

「やっぱり、ここに居たのね」

ノエルが振り向くと、そこにはゴーゴー喫茶で出会ったカオリとマリコが立っていた。

 

「お久しぶりね、2人とも」

「そうだな、元気かい?」

 

「見てのとおりよ」

カオリはそう言うと、ミニスカートに白いブーツの出で立ちで、店内にかかっていたドアーズの曲に合わせて踊りながら一回転して見せた。マリコは、青いミニスカートに黄色のタイツ姿で微笑んでいる。

 

1970年頃のファッション雑誌より

 

朝早くから秘密工作を無事に終わらせたノエルは、緊張から開放されると同時に、強い性衝動に駆られるのを抑えきれなかった。そこでビールで乾杯して音楽に聴き入ったり他愛のない話で盛り上がってから、ドライブに行きたいと言い出した少女たちをクルマに乗せたノエルとSは、八王子方面まで当てもなく走り続けた。そして、途中にあった連れ込み宿の前を通ると、誰からともなく入ろうという話になり、4人は2組に分かれてそこで休憩することにした。

 

カオリと2人きりになったノエルは、部屋に入るなり服やブーツをも脱ぐ暇も与えずに下着だけ剥ぎ取ると後ろから彼女を犯した。その途中でノエルはこう言った。

「Sは…本当はオマエのことが好きなんだよ」

「え! ウソでしょう? そんな素振りは感じたことないわ」

 

「あいつは、ぶきっちょだからな、オンナの扱い方がわかんないだけだよ」

「でも、妹がいるじゃない」

 

「うん、それもあってか、最初は年上のオンナにしか興味がないって強がってたけど、アイツがオマエを見る目でピーンときたんだ」

「そうかしら・・」

 

それから数分後に行為を終えると、カオリはコンパクトで目元を整えてからこう言った。

「ねえ、ちょっと・・わたし隣の部屋を見てくる」

 

カオリが部屋を出てから少し間を置いて、ドアをノックする音がしたのでカギを開けに行くと、目の前にいたのはマリコのほうだった。

 

「おう、マリコか・・どうした?」

「だって、カオリがいきなり部屋に入ってきて、ベッドに潜り込んでくるんだもん・・」

 

ノエルはそれを聞いて思わず吹き出した。

「なんで、そんなに笑うの?」

「いいや・・いいんだ」

 

マリコはすこし頬を膨らませると、ベッドまで歩いてそこにちょこんと座った。その仕草はカオリにはない“しをらしさ”がある。彼女は、意を決したようにノエルに抱きついてきてからこう言った。

「やっぱり、アナタがいい」

ノエルは流れに身を任せるようにしてマリコを受け入れた。

 

1968年に20歳前後だった不良の少年少女にとって、こうした性衝動はごく当たり前のことだった。戦後の日本では、一番若者たちが弾けていた時代である。学生運動に明け暮れる者もいれば、ノエルたちのようにゴーゴー喫茶に出入りするような若者たちにとっては、セックス、ドラッグ、ゴーゴーに浸る生活はごく自然なことだったのだ。

 

もっとも……少年Sやノエルには、スピード、バイオレンス、ビートと言ったほうが似合ったかもしれないが……。

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