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オリジナル小説「秘密の八重歯」第四章 – 6

犯行のリハーサル中に浮かんだある秘策

多摩農協への5回目の脅迫が行われた1968年7月25日、ノエルと少年Sは前回と同様に9時10分頃に日本信託銀行を出た現金輸送車をクルマで追尾した。銀行を出た黒いセドリックのトランクに、行員たちが向かいの三菱銀行からジュラルミンケースを運び入れて出発するのは前回と同じ流れだ。セドリックは、国分寺街道を時速30kmでゆっくりと南下し、明星学苑のある学園通りを右折して府中刑務所の塀沿いに走っていく。

 

学園通りにある府中刑務所の灰色の塀に差しかかったとき、ノエルはこう言った。

「現送車を襲うのは、この辺りだな」

「うん、オレもそう思う」

 

左側には塀がしばらく続くが、すぐ先の右側には都立府中高校がある。この学校のグラウンドを越えたらすぐに現送車を追い越して道路脇に停車させ、現送車を奪うのが良さそうだ。左側前方には府中刑務所の監視塔が見える。その監視塔よりも手前で停車させるのがベストだからだ。

 

「このグラウンドが目印だな」

「うん」

 

「もう少し先まで行くと、刑務所の監視塔がある。そこから警察にでも通報されたら計画は水の泡だ。なんとかその手前で現送車を捕らえられるか?」

「大丈夫、オレにまかせろよ。前回もそうだったが現送車は見ての通りノロノロだ。バイクならすぐに追い越せるさ」

 

Sは、そう言って自信のほどを窺わせた。ノエルはもちろんのことだが、Sもクルマやバイクの運転技術は天下一品だ。2人で一緒に走れば、まるで一心同体のようにそれを操れる。ノエルがサッカーのMF(司令塔)なら、SはさながらFW(得点王)といったところだろう。

 

しかし、こうしたコンビネーションは、ノエルのマニピュレーションによって生まれていることに、Sは気づいていない。しかし、ノエルといえどもすべてが万能なわけではない。運転技術が未熟な相手では自分の化身にはなり得ない。天性の運転テクニックを備えているSだからこそ、こうした高度な連携が可能であることを、ノエルも強く感じていたのだ。

 

この時、ノエルにはある考えが浮かんでいた。Sが白バイを操るのが得策であることはセンパイOの言うとおりだ。しかし、自分がSをコントロールしない限り、この強奪は失敗してもおかしくない・・。ノエルは、この2回めの現送車の追尾でそう直感したのだった。

 

この話をいまSにしたところで、彼は聞く耳を持たないだろう。今日の追尾を終えた後でセンパイOを交えた3人で自分のアイデアを話そうと心のなかで決めた。

 

現送車は、前回と同じように東芝の工場へと入っていった。それを確認したノエルは言った。

「今日は、銀行へ先に戻って現送車が戻って来るのを見届けよう」

 

ノエルとSは、国分寺の日本信託銀行に先回りして付近にクルマを駐車させ、現送車が戻ってくるのを見張るために銀行の裏側へと歩いて向かった。銀行の裏側には居酒屋が3軒ほど並んでいる。2人は『禿鷹』という居酒屋の前で現送車が戻ってくるのを見張った。こういう時は2人いたほうが都合が良い。1人で立っていれば怪しまれそうだが、2人で話しながらそこにいれば、近所の若者が立ち話しているように見えるからだ。

 

時間にして7、8分ほどして現送車は戻ってきた。3人の行員はクルマを降りて行内へと入っていく。運転手だけ、クルマの脇に佇んで煙草をふかしているのが見えた。ノエルは、Sの肩を叩いてから歩き出し、自分たちが停めたスカイラインのほうへと戻っていった。

 

2人の乗ったクルマは、センパイOの家へと向かって走った。クルマをOのスカイラインGT-Bの隣に並んで停めるが、そこにはOの姿はない。部屋の方を見ると、Oは居間から2人を見て手を振っている。ノエルとSは、玄関の扉を開けてOのいる居間へと入っていった。

「今日は、うまく行ったな」

Oは、満足そうな笑みを浮かべて2人を出迎えた。そして、居間のテーブルの上にはヘッドホンが置かれている。そのケーブルの先には、最新型の無線機が置いてあった。

 

1970年頃のトランジスタ型無線機 Photo by hamlife

 

Oによると、多摩駐在への脅迫は有効ではなかったが、農協の脅迫は効果があったようで、府中署では捜査員を総動員して死体の捜索にあたっているのを確認したようだ。

 

ノエルは、現送車を予定通りに追尾して、銀行へと行員が全員戻ってくるのを確認したことをOに伝えた。ノエルとSが乗っているのは、昨年12月に盗んだスカイラインだ。もし、どこかで職務質問でもされれば、ナンバーからすぐに盗難車であることがバレてしまうだろう。その点からすると、多摩農協脅迫によって警察の注意が府中のほうへ向いているのは好都合である。

 

ノエルがそう思っていると、Oも同じことを考えていたのか、こう話した。

「君たちの乗っているスカイラインは、そろそろ向こうにも気が付かれているかもしれんな」

「いや、そんな気配は感じられませんよ」

 

少年Sがこう答えると、Oは首を横に振ってこう言った。

「だが、念には念を入れて、次回からは別のクルマを用意したほうが良さそうだな」

「わかりました、何とかしましょう。それで、実行はいつの予定ですか?」

 

Oは、落ち着き払った口調でこう言った。

「実行には、前にも言ったように周到な準備が必要だ。白バイに改造するバイク、犯行に使うクルマ3台、その他にも警官の服装やら何やらで、今すぐにというわけにはいかない」

「クルマやバイクなら、すぐにでも調達できますよ」

 

「いや、そう焦るな。脅迫は次回で最後にしよう。それが終わったら、クルマやバイクの準備に取り掛かるんだ」

 

まだ、納得しきれない様子のSを横目に、ノエルはさっきクルマの中で思いついたことを話し始めた。

「今日、現送車を追っているときに思いついたことを言います」

「なんだ?」

 

「犯行を実行する白バイの前に、もう1台援護用のクルマを用意したほうが良いのではと思ったんです。もし、ニセ警官だと見破られて行員に反撃でもされたときに、それを救うのが目的です」

「どうやって助けるつもりだ?」

 

「ニセ白バイのままで逃走させるのは目立ちすぎて危険です。だから、逃走車にSを乗せて、すぐに発進できるように準備するんです」

「しかし、そうなると白バイは置いたままになるぞ」

 

「でも、成功したとしても白バイは置いたままですよね? 警官が現送車に乗って逃げ去る計画ですから」

「まあ、確かにそうだが・・」

 

Oは、しばらく考え込んだように黙っていた。そして、おもむろに立ち上がると、庭のほうを見つめながらこう言った。

「ノエが言ってることもよくわかる。今度、会うときにまで詳細は考えておく。今日はこの辺までにしておこう」

「はい」

 

ノエルと少年Sは、自分たちのクルマに乗ると、立川方面へと向かってスカイラインを走らせた。Sは、クルマを運転しながらこう言った。

「さっきは、ありがとうな」

「ああ、いいんだよ。気にするな」

 

「しかし、オマエの取り越し苦労だったと思えるくらいに鮮やかにやってみせるよ」

「ああ、頼んだぞ」

 

ノエルを米軍基地の前まで送ってから、Sはスカイラインを小金井市の本町団地へと走らせ、団地の駐車場に駐めてカバーをかけると、自分のオートバイに乗って国分寺の自宅へと戻っていった。しかしこの時、警察の追っ手が自分の身に迫っているということをSは考えもしなかった。

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