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オリジナル小説「秘密の八重歯」第四章 – 10

自由を求めて、一瞬のスキを突く

その頃、少年Sは密かに鑑別所からの脱走を企んでいた。1968年の9月4日、鑑別所では収監者をぶどう狩りへと連れて行き、収穫の手伝いをさせる予定だった。「大野ブドウ園」という施設である。Sは、数日前からこの日の移送中に少しでもスキがあれば脱走しようと考えていた。

 

Sは、少年マガジンで連載中の「あしたのジョー」の愛読者だった。ぶどう園で農作業があることを知ってからというもの、漫画の主人公 矢吹 丈が、少年院の施設である農場からブタにまたがって脱走しようとする話を思い出していた。Sは、ぶどう園で作業をする予定のその日をXデーと決め、脱走を頭の中でずっと思い描いていたのだ。

 

週間少年マガジン 1968年2月18日号

 

「あしたのジョー」では、少年院の柵に向けて突進するブタたちを、颯爽と現れた力石 徹が次々とパンチでぶちのめしてしまい脱走は失敗するのだが、現実の世界には幸い力石のような男は現れなかった。Sは、ぶどう園に着いたバスから降り立って移動させられる際に一瞬のスキを突いて、まんまと脱走に成功する。19歳の少年の駆け足は速い。鑑別所の職員が必死で追いかけたが追いつく者はいなかった。

 

ぶどう園から電車を乗り継いで地元へと戻ったSは、国分寺の実家へは寄り付かずに立川グループの友人宅や、新宿のゲイボーイのアパートなどを転々としながら暮らす生活をはじめた。こうして自由の身になった少年Sがはじめにやるべきこと、それはノエルと連絡を取ることである。電話をすると、さすがにノエルも驚いていたが、“詳しいことは会ってから話すよ、明日の5時にメンフィスで待ってる”とだけ言い伝えて電話を切った。ゲイボーイの部屋からだった。

 

次の日の夕方、少年Sはヒーロー気分でノエルと社場で会った。昼間、ゲイボーイに勧められて新宿で観た映画「暴力脱獄」の主人公、ルーク・ジャクソンになった気分だった。刑務所から脱走するポール・ニューマン演じるヒーローは、どんな逆境に立たされても自分を信じて反体制を貫く。任侠映画にありがちな義理人情の世界とはまた違ったヒーロー像であり、当時のSの心境には響くものがあったのだ。

 

1968年8月24日に日本で公開された映画「暴力脱獄」の宣伝用ポスター

 

「やあ、どうだい調子は?」

「うん、お前の方こそ、元気そうじゃないか。けっこう早く出られたんだな」

 

「出られたんじゃない、自分から出てきたんだよ」

「なに!? 脱走したのか!」

 

「へへっ! まあ、そんなところだ」

「なんてこった・・」

 

店内では、発売されたばかりのクリームの『素晴らしき世界』がかかっている。エリック・クラプトンのギターソロで音量が大きくなったところで、計画していた大きなヤマの状況を聞くと、ノエルはこう答えた。

「オマエが戻ってきてくれて助かったよ」

「何があった?」

 

「8月にも“リハーサル”をやったんだが、現金強奪には最低でも2人必要だと思ったんだ」

「というと?」

 

「白バイ警官は目立つだろ?」

「ああ」

 

「だから、誰にも見られないような物陰で待機するんだ。そして、もう一人が現送車が来るタイミングを見計らって白バイに合図を送る。そして、現送車をやり過ごしたら、その物陰からバイクを走らせるんだ」

「それはいい考えだ」

 

「問題は、いつどこでその合図を送るかだ」

「うん」

 

「次のリハーサルでは、Oさんもクルマに同乗することになっている。そこで、その場所と方法を練る予定だ」

「じゃあ、オレも行くよ」

 

「わかった。オマエが出てきたことはOさんに伝えとくよ。ただし、脱走したことは言わないでおこう。このことは、オレとオマエしか知らない秘密だ」

「わかった、よろしく頼んだぞ」

 

2人は、その話が済んだあとは“ネリカン”での体験談や、Sがいない間に起こったことなどを話しあった。固い絆で結ばれているが、ノエルの知らないゲイボーイのことについて、Sは多くを語らなかった。また、鑑別所を脱走してきたSとは、あまり頻繁に会うことも出来ない。大きなヤマに向けての密談以外に、2人が会う機会は次第に減っていったのだった。

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