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オリジナル小説「秘密の八重歯」第四章 – 11

9月に3人で描いた青写真

9月25日の“リハーサル”に向けて、ノエルと少年Sに課されたのは、現送車を追尾するための新たなクルマを調達することだった。大きなヤマに向けては、まだやらなくてはならないことは多いが、現送車に気が付かれては元も子もない。万全を期して実行するためには周到な準備が必要だ。普段は大胆すぎるくらいに横暴なSも、このヤマにかけては他2人の意見を素直に聞いた。

 

今回のクルマの調達はノエルと少年Sが2人で行った。9月10日の夜中、ノエルが運転するスカイライン1500に乗った2人は、調布市染地にある多摩川住宅へと向かった。まだ竣工したばかりの大規模な都営住宅だ。この団地内に駐めてあった真新しいサニーデラックスに2人は目をつけた。当時の日本ではカローラと並んで最も一般的な大衆車である。いつもの手口でSはサニーのドアを開けると、コードを直結してエンジンをかけた。そして、いざという時のために停車していたスカイラインの後を追ってSはサニーを団地の外へと走らせた。

 

ニッサン サニーセダン 1966年型 日産自動車カタログより

 

今回、クルマの保管場所として選んだのは本町団地ではなく、立川市の富士見町団地だった。この時代に急速に増えていた三多摩地区の新興団地は、彼らにとって格好のターゲットであり広大なガレージだった。昔ながらの民家と違って、団地に入居しているニューファミリーは、他人に対して無関心なのが特徴である。ノエルとSは、そうした団地住民の行動意識を上手く利用したのだ。

 

盗んだクルマの一番の問題は、キーがないのでガソリンの補充ができないことである。このため、多くの盗難車はガソリンが切れたら乗り捨てられるのが定石だ。ガソリンスタンドで補給する際には、安全のためエンジンの停止を求められる。当時のガソリンスタンドは、ほぼすべてが有人でありセルフ式スタンドは皆無に近い。また、当時のクルマにはフューエルオープナーは装備されていない。エンジンを止めたあとでクルマのキーを店員に渡し、燃料ドアを開けてもらって燃料補給していた時代である。

 

ガソリン給油口 昔のクルマはキーで開けていた。※乗りものニュースより

 

ガソリンスタンドでコードの直結操作をしていては当然怪しまれる。ましてや、キーがないので燃料ドアも開かない。ノエルとSは、この問題を解決するためにスカイライン2000GTと同1500の2台のトランクのキーを壊して、中にガソリン補充用タンクを積めるようにした。他のクルマにガソリンを補給するためである。繰り返し使うクルマの燃料ドアは、すべて壊しておけば良い。

 

しかし、困ったことにスカイラインの2台はトランクのロックが利かないためにちょっとした振動で開いてしまう。開いたまま走っていれば、たちまちパトカーや白バイに停められてしまうだろう。ナンバープレートから盗難車であることもすぐにバレてしまうはずだ。そのため、トランクの開閉ドアの中心には大きな石をぶら下げて、それを重りとして不用意にドアが開かないよう改造を施すことにした。

 

スカイライン2000GTR(1969年)のトランクルーム Photo by モーターファン

 

2台のスカイライン、なかでも少年Sがはじめに盗んだ2000GTはずいぶん走っている。ナンバーと車検証はそのままだ。もし仮に検問に引っかかったときは、それを突破して県境まで走るつもりである。神奈川や埼玉に隣接した三多摩地区には地の利がある。

 

ノエルに関しては、米軍基地内へ自由に出入りできたので、いざとなればクルマで基地内へと逃げ込むという奥の手もある。ただ、いずれにしても大きなヤマを踏む前に危険を冒すようなことは、避けなければならない。もし、警察にマークされるようなことになっては、すべてが水の泡になってしまうからだ。

 

サニーを確保した2人は、それをセンパイOへと連絡した。サニーには、まだ半分以上ガソリンが残っている。9月25日の東芝給料日には、このクルマにOを含む3人が乗って現送車を追いながら、白バイの待機場所と襲撃地点を最終確認することになった。

 

9月25日、ノエルが運転するクルマは日本信託銀行の手前で現送車が現れるのを待っていた。助手席にはS、後部座席にはカメラを持ったOが乗っている。9時10分にいつものように銀行から出てきた行員たちは、向かいの三菱銀行からジュラルミンケースを現送車に運び込むと、いつもと同じメンバーでクルマをスタートさせた。

 

国分寺街道に入った現送車の黒いセドリックは、南町2丁目の交差点の信号待ちで停車した。ノエルは、前を向いたまま2人に話した。

「この交差点を右に曲がって直進すると、府中街道に出ます。東芝へ行くことのできるもう一つのコースです。前回の帰り道はこっちを通って帰ってます」

「なるほど、道が空いてれば通りたくなりそうなコースだな」

後部座席のOは、そう言って何枚か写真を撮った。

 

セドリックは、右には曲がらずに交差点を直進した。しばらく走ると、クルマは東元町を越えて栄町に差しかかった。明星学苑方面行きのバスが停車していて、セドリックはブレーキを踏んだ。一瞬、運転手がバックミラーで後続車を確認する素振りを見せた。

 

ノエルは、前を向いたまま話した。

「このすぐ先の右斜め前に、細い道があります。一方通行の出口だけど、ここを逆走すれば学園通りに先回りできます」

バスが動き出して、セドリックは再び走りはじめた。間もなく次の交差点、明星学苑前をクルマは右折する。サニーも少し車間を開けながら後を追った。府中刑務所の前を通る学園通りだ。

 

ノエルは右手の親指で道を指しながら、こう言った。

「この道が、さっきの一通の入口です。ニセ白バイが待機するには、ちょうど良さそうな道です」

「しかし、一方通行の逆になるな・・」

 

Oがそう言うと、少年Sはこう言った。

「白バイやパトカーなら、緊急事態には逆走もしますよ。サイレンを鳴らしながら逆走するのを何度か見たことがあります」

「なるほど・・」

 

現送車のセドリックは、府中街道を越えると浅いトンネルを潜って東芝の工場へと入っていった。3人が乗ったサニーは、それを確認するとクルマをUターンさせて、いま通って来た道を逆に辿った。右側の府中刑務所を越えて、明星学苑前の交差点手前にある一方通行の道をサニーは左折した。その道は、国分寺街道へとバイパスする一本道になっている。民家が建ち並んだ細い道である。

 

一方通行の出口手前には、ニセ白バイが待機するにはぴったりの空地が左側にある。後部座席でそれを確認したセンパイOは、カメラを構えると空地の写真を数枚撮ってからこう言った。

「よし、これからオレの家へ行って作戦会議だ」

「了解です」

ノエルは、そう返事をしてクルマをOの自宅がある国立方面へと方向転換させた。

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