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オリジナル小説「秘密の八重歯」第四章 – 15

3人による初めての予行演習

1968年10月25日、賭博師Oにノエルと少年Sを加えた3人は、東芝行きの現金輸送車の8回目の見張りを行った。今回は、具体的な本番に向けたリハーサルとして実施することになった。3人の役割分担は以下である。

 

1.日本信託銀行の前で現送車の出発を確認し、先導車にそれを知らせる役割 Oが担当

2.現送車の前に先導車を走らせ、犯行が失敗した場合に援護する役割 ノエルが担当

3.先導車の合図を受けてクルマを走らせ、白バイに乗り換えて現送車を強奪する役割 Sが担当

 

Oからノエルへの連絡は「ハンディトーキー」と呼ばれるSCR-536というトランシーバーを使うことになった。当時はまだ日本では普及していない携帯無線電話機で、第2次世界大戦のころから米軍が使っていたものだ。この軍用通信機はOが調達してきた。

 

アメリカ軍が使用していた携帯無線電話機 SCR-536

 

Oは、朝の8時50分に国分寺駅前の路上にスカイラインGT-Bを停車させた。その少し離れた位置から日本信託銀行を見張っている。いつもなら9時10分には行員と現送車が同時に出てくるのだが、この日は9時15分になってようやく動きがあった。だが、異変はそれだけではない。斜め向かいにある三菱銀行からジュラルミンケースを運び出して現送車のトランクに積むはずが、今回はその動作が省略されたのだ。

 

その予想外の動きにOは一瞬とまどったが、現送車が走り出すのを確認するとハンディトーキーでノエルに連絡した。

「こちらO、ターゲットがいま出発した・・どうぞ」

「了解!」

ノエルはバックミラーに現送車のセドリックを確認すると、サニーデラックスをゆっくりと走らせた。中央線のガードを潜ると、信号待ちでクルマを停車させる。

 

セドリックはそのままサニーの後ろで停車した。信号が青になって交差点を通過する際、後続する現送車をミラーで確認したノエルは、道路の前方に停車しているスカイライン2000GTに向けてパッシングで合図をした。石垣階段前の路肩に停車しているSが乗ったスカイラインは、そこからクルマを急発進させると、徐々にスピードを上げて視界から遠ざかっていく。

 

セドリックはゆっくりとサニーの後ろを走っている。時速28kmの安全運転だ。国分寺街道は道幅が狭く通勤時間帯ということもあり通行人も多い。この道を制限速度の30km以内で走るのは現送車に限ったことではない。明星学苑方面に向かうバスもよく通るため、自然とゆっくりした流れになる道だ。サニーは、途中の信号が黄色になりそうなタイミングでブレーキを踏んだ。時間を稼ぐためである。

 

この間、Sが乗ったスカイラインは栄町の抜け道を右斜めに入ると、空地に停めていたバイクに乗り換え、急いで抜け道を走りきると学園通りの手前で停車した。Sは、そこで時計を見ながら現送車が通過するまでの時間を計った。先導するサニーの後を走ってきたセドリックがそこを通過するまでにかかった時間は1分20秒だった。

 

1974~1978年当時の国分寺市栄町、府中市晴見町の上空写真

 

現送車が通り過ぎたあと、少し間をあけてOが乗ったスカイラインGT-Bがその前を通過した。それを確認し終えたSは、バイクでいま通ってきた道を戻ると、さっき乗り捨てたクルマにふたたび乗り換えて待ち合わせ場所の西元町の七重塔跡へと向かった。

 

そこには、ノエルの乗ったサニーとOが乗ったGT-Bがすでに到着してSが来るのを待っていた。クルマから降りたSが、2人のいる場所に近づいていくとOが声をかけた。

 

「おつかれさん、現送車が通過するまでどれくらいかかった?」

「1分20秒くらいです」

 

「そうか、ほぼ想定内だな。これから、ジュラルミンを載せ替える場所へと案内する」

Oは、そう言うと2人を笹薮が密集する細い道へと誘導し、その途中にある小さな墓場の前で立ち止まってこう言った。

 

「あらかじめ、この場所に載せ替え用のクルマを停めておくんだ。この通り道なら、ぎりぎりクルマが乗り入れられる。笹が生い茂っているから人目にもつかない。強奪したセドリックをこの道に停め、ジュラルミンを載せ替えたらすぐに逃げ去るんだ。その役目はノエにやってもらう」

「はい」

 

「Sのほうは、白バイの服装から普段着に着替えたら、ノエが乗ってきた先導車に乗り換えて、待ち合わせ場所へと向かってくれ。着替えは先導車の中に用意しておく。ここまでの段取りが上手く運んだら、ハンディトーキーからオレに連絡するんだ」

「了解です」

 

「なーに・・通報を受けた警察がマークするのは現送車のセドリックだけだ。それ以外のクルマが検問で停められることはないだろう」

Oのその言葉に2人はうなずいた。

 

「2台のクルマはどこに向かえばいいんですか?」

Sがそう聞くと、Oはこう答えた。

 

「ここから、小金井の本町団地へと向かう途中にアジトを準備するつもりだ。その場所についてはこんど教える。他に、何か気になったことはないか?」

「そういえば、現送車のスタート時間が今日は5分ほど遅かったですね?」

 

ノエルがそう聞くと、Oは思い出したようにこう言った。

「いいところに気がついたな! 現送車は今日、三菱には立ち寄らずに直接日本信託から出て行ったんだ。理由はよくわからんがな・・。ただ、相変わらず東芝まで現ナマを送り届けてるんだから、現金輸送は通常通りに行われてるに違いない」

 

Oは、そう言うと2人にクルマへ戻るように促して、3人はそこで一旦解散した。時計の針は9時50分を回るころだった。Oが選んだこの笹薮は武蔵国分寺跡のすぐ近くであり、通り道の入口には七重塔跡があるため未開発の区域である。周囲にはいくつか民家があったが、昼夜を問わず人通りはほとんどない。住宅地から少し離れた遺跡という死角をうまく利用しようという計画である。

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