オリジナル小説「秘密の八重歯」第四章 – 16
完全犯罪のカギを握る秘密の場所
賭博師Oは、ノエルと少年Sが盗んだクルマを保管している小金井の本町団地を、犯行に使ったクルマの乗り捨て場所として最適であると考えていた。新興の団地故に住民同士の付き合いが希薄な上、駐車場の管理もされていない。来客用の駐車場は無法地帯となっているのである。この場所に、シートカバーをかけて駐車しておけば、数カ月はおろか半年くらいはそこに置き去りにできると考えたのだ。

問題は、奪った現金をどの場所で移し替えるかだ。もし強奪に成功すれば、ジュラルミンを載せ替えたクルマは10時前には本町団地に到着するだろう。しかし、いくら他人に無関心な団地でも、ジュラルミンケースから大量の現金を出し入れしていれば、誰かしらの目について不審に思われることもあり得る。
現金抜き取りのアジトを自分が住む自宅にすることも考えたが、さすがにそれは危険である。今回の目的は、ニセ白バイによる数億円の現金強奪という、世間を揺るがすような完全犯罪を成功させることだ。もしも自分が捕まるようなことがあれば、これまでに費やしてきた苦労はすべて水の泡だ。
Oは、西元町の笹薮から本町団地へと向かう中間地点に、ジュラルミンケースから現金だけを抜き取れる場所はないかと自分のクルマで視察を重ねた。理想的なのは車庫を備えた工場のような建物だ。人目につかずにその作業を行うにはクルマの修理工場などが最適だろう。

視察をしていたOは、東元町交差点から近い元町通り沿いに最適な場所を見つけた。地元の農家らしいその場所は、クルマが数台駐車できる庭と倉庫を備えた施設である。Oはその場所の写真を車内から撮影した。その後、逃走ルート上にある他の候補地にもいくつか目星を付けると、その場所の写真も撮った。Oは、大学ノートに手書きの地図を書き、その横に撮影した写真を貼って現金抜き取り場所の候補を絞っていった。
A.元町通り沿いにある農家が所有する庭と倉庫付きの物件
B.元町通りから連結する西の久保通りのくらぼね坂手前左にある東京経済大学裏の林道
C.西の久保通りのくらぼね坂手前を右折するとある貫井神社向かい側の空地
D.貫井南町三丁目にある三楽の森から三楽の坂へと抜ける細い石垣の道

Oは、このノートに書いたメモを駅前の印刷所で複写すると、その書類を渡しに富士見台四丁目の公園へと向かった。いつものベンチへと歩いて行くと、黒い帽子にサングラスをかけた男が先に来て座っていた。Oは、帽子の男の横に座ると煙草を取り出してそれを口に咥えた。帽子の男はオイル式の舶来品ライターを取り出してその煙草に火をつけた。
「リハーサルは上手く行ったようだな」
「はい」
「ハンディトーキーは上手く使えたか?」
「おかげさまで、重宝してます」
「それで、今回の相談というのを聞かせてもらおうか」
Oは、複写したノートのメモを取り出して男に渡してからこう言った。
「ジュラルミンを移し替えるまではいいんですが・・そのなかの“ブツ”をどの場所で取り出して、どこに保管するかが問題なんです」
「保管する場所なら、すでに確保してある。問題は、ブツの抜き出しをどこでやるかという話だな?」
「はい、なにぶんジュラルミンは目立ちます。人目を避けて抜き出しをするには、どこかにアジトが無いと危険だと考えます」
「なるほど、確かにそれはその通りだ。それで、この資料はその候補地ということか?」
「はい、アジトを探すとなると、他に協力者が必要になります」
「つまり、その協力者を探してほしいというわけだな?」
「はい」
「計画は12月だったな・・それまでに協力者を探せというわけか」
「もし、仮に協力者がいないとなると、その資料のB、C、Dのいずれかでブツの抜き出しをすることになります」
「わかった、すこし時間をくれ」
男はそう言い残すと、資料を折りたたんで胸ポケットにしまってゆっくりと公園を後にした。
Oは、男から受け取った茶封筒を見て、それを自分の胸ポケットにしまうと、男の姿を確認したが、すでにその影はなかった。ゆっくりとした動作の割には男の動きは速い。ちょっと目を離すとすぐに姿を晦ます男の存在は、まるで幻のようだった。
第四章 終わり
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