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オリジナル小説「秘密の八重歯」第五章 – 2

現金抜き取り現場のトリック

SがセンパイO宅の居間へ入っていくと、Oは“おつかれさん”と声をかけて居間のソファへと導いた。ソファにはすでにノエルが座って待っていた。Sがノエルの横に座ると、Oは対面の椅子に腰を掛けて話しはじめた。

 

「この間のアジトの件だが、やはり短期間で用意するのは難しい。仮に庭付きの空き家を借りれたとしても、警察の捜査が進むにつれて契約書から足がついちまうからな」

「そうすると、どこで現金を抜き取るんですか?」

 

東京都小金井市 貫井神社 ※いつもNAVIより

 

「西元町の笹薮から小金井団地へと向かう途中、西の久保通りから小道を入った所に貫井神社がある。そのすぐその先に三楽の坂という狭い坂があって、この坂は通学路になっていて朝7時から9時までは車両通行止めだが、9時以降はクルマも通れるようになる」

「なるほど」

 

「この坂の中腹に、トの字形の三叉路があるんだが、この三叉路を右に上がると誰からも見られない細い坂があるんだ。ただし、角度が急なので右折はできないからバックで坂を登らなくてはならん」

「しかし、もしクルマが後ろから来たらどうするんですか?」

 

「うん・・オマエらのクルマがやって来る前に、オレが先回りして反対側にトラックを止め、通行止めの柵を立てるようにする。そうすれば、クルマも人も通れないから誰の目にも触れられないというわけさ。作業員の格好で行くから怪しまれることもないだろう(笑)」

「なるほど」

 

三楽の坂の中腹にあるトの字型の三叉路

 

「箱根の登山鉄道のようにスイッチバックして、45°斜めに坂を登るような感じだ」

ノエルと少年Sは、そこでやっとイメージを掴めたという表情をしてうなずいた。

 

「どっちか先に着いたほうのクルマからでいい。2台目のクルマが着いたら同じようにしてバックで坂を上るんだ。2台目が入ったら、オレは三叉路の入口に立ってそこで通行人やクルマをシャットアウトする」

「はい」

 

「その間に、ジュラルミンから現ナマを別の袋に移し替えてくれ。カラのジュラは元のクルマに戻して小金井の本町団地へ向かってもらう。このクルマはSが運転してほしい」

「了解です」

 

賭博師Oから伝えられた現金抜き出し場所。両端には木や草が生い茂り、誰からも見られることがない。

 

「もう1台のクルマ・・現ナマが積まれたほうにはノエルが乗って立川基地へと向かうんだ。ノエルなら基地の中にも顔パスで入れるだろう?」

「はい、大丈夫です」

 

「現ナマを積んだクルマは一晩そこに置いておき、翌日の夜にでもオレの自宅へと運んできてくれ。現ナマは自宅でしばらく預かるが、約束どおりに後で3人でヤマ分けするから、その点は安心してくれ」

「わかりました」

 

「何か、質問はあるか?」

「さっきの坂は、通行止めにするほど交通量が多い道なんですか?」

 

「いいや、通学時間が過ぎたころだから滅多にクルマも人も通らない」

「それなのに、そこまでする必要はあるんですか?」

 

「念には念を入れなければ完全犯罪は成立しない。万が一ということも想定しておかなくては、今までの準備もすべて水の泡だ」

ノエルと少年Sは、Oの話に納得してうなづいた。

 

3人は、Oのクルマに乗って現地を視察に行った。そこは、Oが言うとおりに、人やクルマの通る気配のない、どこか寂しい気分にさせるひっそりとした坂だった。

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