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オリジナル小説「秘密の八重歯」第五章 – 5

犯行前夜の最終ミーティング

12月9日、決行日の前日となる月曜の午後、ノエルと少年Sは最終ミーティングのために賭博師Oの家へと別々に向かっていた。ノエルは立川から、少年Sは新宿のゲイボーイ宅から電車で別々にやってきた。この日の天気は曇りだが、決行日となる翌日の天気は雨の予報だ。

 

Oは、少年Sのためにレインコートを用意した。古いコートだが、痩せ型のSが白バイ警官の服装の上に重ね着できそうなサイズである。雨に濡れても良いようにハンチングも一緒にビニールに包んだ。それをSに渡して、Oはこう言った。

 

「オレが着ていたお古で悪いが、これを使ってくれ」

「はい」

 

「明日は、強い雨になるとの予報だ。しかし、オレたちには悠長に傘なんか差してる暇はない。レインコートにハンチングなら、傘なしでも不自然ではないだろう?」

「そうですかね」

 

「ああ、本来はレインコートやハンチングなんてもんは、傘代わりに着るもんさ」

Sは、Oのその言葉にうなずいてハンチングを被ってみた。そして、コートを着て部屋の隅にあった姿見で自分の格好を確認すると、“まるで新人の刑事みたいだ”と言って笑った。

 

「明日は、白バイ着の上にそのコートを羽織って、カローラで待機してくれ。助手席には、すぐに被れるようにヘルメットを用意しておくんだ」

「はい」

 

「もう1台のカローラは、西元町の笹薮に待機させる。墓場の横だ。こっちは4ドアのほうがいい。ジュラルミンを入れやすいからな」

「了解です」

 

「2台のカローラは、小金井の本町団地にまだ駐めてあるよな?」

「はい」

 

「明日の朝早くに、オレがクルマで小金井まで2人を送っていく。クルマをピックアップしたら、それぞれの場所に配置させるんだ」

Oの話に、Sはうなずいてこう言った。

 

「白バイはいつ運ぶんですか?」

「カローラを配置させた後だ。オレは、2人をGT-Bに乗せて一旦ここへ戻る。ここに着いたら、Sには白バイに乗って栄町の空地へと向かってもらう」

 

「白バイの格好で行くんですか?」

「いや、それではあまりにも目立ってしまうだろう? だから、白く塗ったところには黒い布を被せてピンチで止めておく。そうすれば、ごく普通の黒いバイクが走っているようにしか見えない」

 

「空地に着いた後はどうしますか?」

「まずは、黒い布をはぎ取って白バイに戻す。その上に、クルマのシートカバーを被せて見えないようにしておけばいい。誰にも見られないように気をつけろよ」

 

「はい」

「ノエの方は、スカイライン2000GTに乗って国分寺駅近くで待機してもらう。GTには、Sの着替えを乗せておくんだ」

 

「それから、2台はトの字形の三叉路へと向かうんですね?」

ノエルがそう聞くと、Oは大きくうなずいてからこう言った。

 

「そうだ、貫井神社の先にある三楽の坂だ。現金の抜き取りについては、この間話した通りだ」

「了解です」

 

Oは、続けた。

「今夜、もう一度オレの家に集まろう。明日の朝は早い。なるべく早めに休んで明日に備えよう」

 

ノエルと少年Sは、Oの家を出ると自然と足は立川の「メンフィス」へと向かった。センパイOと出会ったのもこの店だ。久しぶりに2人で店へ入って行くと、店内ではドアーズのアルバム『ハートに火をつけて』がかかっていた。2人はオーナーと挨拶をしてから、ビールをそれぞれ頼んで乾杯した。

 

「いよいよ、明日だな」

「ああ、この日が来るのを待ち望んでいたぜ」

 

「おい、見ろよ」

ノエルは、Sからそう言われて店の窓から外を見ると、どんよりと曇った空から、ザーザーと雨が降り出してきていた。通りを行き交う人々の動きがどんどん早くなっていく。その様子を見ながら、ノエルとSは煙草に火をつけて、白い煙を吐き出した。2人のハートにも火がついた瞬間だった。

 

ドアーズのデビューアルバム『ハートに火をつけて』1967年

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