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オリジナル小説「秘密の八重歯」第五章 – 6

犯行の影に隠れていた知られざる工事車両

1968年12月10日の午前零時過ぎ、ノエルと少年SはふたたびセンパイOの家へと到着した。家の庭には、工事用の小型トラックが駐まっている。その荷台には、立入禁止の看板が4つ載せられていた。いつ、どこで、どうやってこのトラックを調達したというのか? そのあまりの準備の良さに2人は驚いた。

 

部屋の中へ入ると、作業服姿のOが2人を待っていた。ノエルもSも、部屋へ入るなりOに聞いた質問は同じだった。Oは、悪戯っぽい笑顔を浮かべてこう言った。

 

「警察を辞めてから、オレは電工の仕事をしてたのさ。そんときの会社の社長に頼んで、さっき借りてきたんだ。万札を1枚渡したら、何も言わずに貸してくれたよ」

立入禁止の看板(左)と、1959年生まれのいすゞエルフ(右)

 

Oの作業服姿にトラックと看板があまりにも様になっていたので、思わずノエルとSは笑ってしまった。それから3人は、数時間後からはじまる強奪劇の成功を祈って盃を交わした。まるで、任侠映画の1シーンのようだったが、3人の表情は晴れ晴れとして明るい。なにせ半年以上もかけて準備してきた工作の晴れ舞台が数時間後に待っているのだ。

 

3時間ほど仮眠をとった3人は、朝の4時半に起きて早い朝食をとった。Oが用意してくれた握り飯である。梅干しが入った握り飯を食べ終えた3人は、OのスカイラインGT-Bに乗って小金井の本町団地へと向かった。昨日の夕方から断続的に降っている雨は上がる気配がない。日の入り前の団地は、ひっそりとしていて人影もなく、ただ強い雨音だけが周囲に響いていた。

 

午前5時

GT-Bから降りたノエルとSは、2台のカローラに分かれてエンジンをかけた。緑色のカローラにはSが乗り、濃紺の4ドアカローラにはノエルが乗って、Oが操るGT-Bの後を追って国分寺方面へとクルマを走らせた。Oが運転するGT-Bは、府中市晴海町一丁目にある晴見町団地へと向かった。以前、ノエルたちがクルマの汎用シートカバーを盗んだ場所である。

 

あまりに早い時間からクルマを空地に駐めておくのは、人目について危険だと感じたOが、事前に想定していた前線基地だ。この場所でSが乗ったカローラを待機させ、Oとノエルは2台のクルマで西元町の笹薮へと向かった。濃紺のカローラを配置させるためだ。Oが見守るなか、ノエルは笹薮の中にカローラを乗り入れて、本多家の墓地の脇に駐車させた。

 

それを確認したOは、ノエルをGT-Bに乗せて再び晴見町団地に向かった。少年Sが乗って待っていた緑のカローラは、団地の来客用駐車場に駐めたまま、SをGT-Bに乗せて自宅へと向かう。偽装白バイを栄町の空地へと移動させるためだ。

 

午前5時40分

少年Sは白バイ警官の服装の上にレインコートを着てハンチングを被ると、黒い布でカモフラージュしたニセの白バイに乗って栄町へと向かった。Oは作業着の上に買ったばかりのレインコートを着て、GT-Bの助手席にノエルを乗せてSを追って栄町へと向かった。

 

Sより数分遅れて栄町に着いたOは、空地の端にGT-Bを駐めてクルマを降りると、クルマのシートカバーが被せられてエンジンがかかったままのニセ白バイのほうへと歩いていった。すでに少年Sの姿はない。晴海町団地に駐めてあるカローラへと向かったのだろう。

 

Oは、シートカバーの中に潜り込んで懐中電灯を点け、ニセ白バイの細部をチェックした。Oが危惧していた通り、バイクが走ってきた振動によって赤色灯が外れかかっている。また、左側面に取り付けられたトランジスタメガホンも、位置がずれて下を向いてしまっていた。

 

赤色灯を元の位置に戻し、トラメガも白のビニールテープで補修をしてその位置を調整する。地面には、少年Sが置き忘れていった2つのピンチと黒布が1枚落ちていた。Oは、それらを拾ってポケットに入れると、シートカバーをふたたびかけて空地から通りのほうへと歩いていった。

 

昭和の牛乳配達用自転車

 

午前6時

牛乳配達のアルバイトをしている明星大学の学生が、仕事のために空地を横切った際に、エンジンがかかったままのシートがかぶさったバイクを目撃する。学生は、こんなに朝早くに誰が停めたのかと思いながらその横を通り過ぎると、道の方向に黒っぽいレインコートを着た30代くらいの男が傘も差さずに立っている姿を見た。Oである。学生はそこから自転車をこいで、男のすぐ横を通り過ぎて走り去った。

 

Oは、エンジンのかかったバイクを不審に思っているそぶりの牛乳配達員を見て、再びバイクに戻ると、そこでエンジンを切った。冬であることを理由にあえてエンジンをかけたままにしたのだろうが、キーが付いているバイクなら直結する手間はかからない。エンジン始動は、犯行の直前でも問題はないと判断したのだ。

 

空地の端に停めてあるGT-Bへと戻ると、助手席で待っていたノエルにOは話しかけた。

「ここは、結構人が通る。バイクのエンジンは止めておいたよ」

「そのほうがイイですね」

 

午前6時15分

Oが操るGT-Bは、晴海町団地で待機していた少年Sを加えた3人で、小金井の本町団地へと向かった。現送車を先導させるクルマを取りに行くためである。先導車に3人が選んだのはスカイライン2000GTだった。抜き取った現金を運ぶ際にはトランクが使えたほうが良い。スカイライン1500のほうは、先日ノエルが起こした事故で運転席のドアが開かないから使えない。

 

Oは、後部座席に積んでおいたハンディトーキー(携帯型無線電話SCR-536)と、少年Sの着替えを2000GTへ載せ替えると、2人に向かってこう言った。

 

「どっちが運転する?」

「オレが乗ります」

 

手を挙げたのはノエルのほうだった。2000GTで現送車を先導し、犯行現場でノエルを援護する役目を果たすためにこのクルマを操るのは自分だからだ。Oが操るGT-Bとノエルが乗った2000GTは、本町団地からひとまずOの自宅へと向かった。GT-BはOが昨日借りてきたトラックの横に、2000GTは路上駐車するかたちだ。

 

犯行に使うクルマとニセ白バイの配置を終えた3人は、Oの自宅のなかへ入って小1時間ほど居間で休憩をとった。Oは、台所でお湯を沸かして珈琲を入れてくれた。インスタントだが、一仕事を終えた後の珈琲はとてもうまい。体のすみずみまでカフェインが染み渡るようだった。

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