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オリジナル小説「秘密の八重歯」第五章 – 8

初動捜査の遅れを突いた完全犯罪

午前9時32分

一足早く西元町の笹薮を出発したノエルが運転する濃紺のカローラは、大雨の続く西元町の細い道から元町通りへと抜けようとTの字に差しかかった。その時、造園業を営むH親子が病院へと向かう途中のクルマと危うく衝突しそうになっている。

 

濃紺カローラの目撃現場 ここで犯人が乗ったカローラと造園業を営む本多親子が乗ったブルーバードは危うく接触事故を起こしそうになる。三億円事件の犯人最後の目撃現場である。

 

ノエルは、クルマをバックさせてハンドルを切り返すと、Tの字を右折して東元町の交差点を直進して小金井方面へと向かった。この時、大きな雷鳴が轟いている。元町通りをしばらく走ると突き当たりに出る。ノエルは、突き当りを左折して東京経済大学へと通じる西の久保通りを北上していった。

 

大学に面した“くらぼね坂”の手前を右折して、民家が入り組んだ細い路地を抜けていくと左側に貫井神社がある。その先の真明寺の角を直角に左折すると、集合場所の三楽の坂だった。

 

午前9時40分

ノエルが運転する3つのジュラルミンケースを積んだカローラが、三楽の坂を上っていくとトの字型の三叉路で作業服を着たセンパイOが立っていた。Oは、滅多には見せない笑顔で運転席のノエルに右手を上げて合図をした。ノエルはカローラのテールを三叉路の角に合わせて停めると、器用に斜め45°にスイッチバックさせて交差する坂を上っていった。

 

その坂の中腹で停まるようにOが合図をする。坂の上には、Oが乗ってきた小型トラックが駐車されており、トラックの後ろには立入禁止の看板が2脚立てられていた。カローラを停めたノエルは、ホッとしてタバコに火を付けた。

 

三楽の森から三楽の坂へと抜ける細い坂道の下り道路。 工事車両が駐められ、交通止めをさせている。 ※写真はイメージです

 

ノエルの到着から1分後には、少年Sが乗ったスカイライン2000GTが三楽の坂に到着した。センパイOは、三叉路で同じようにしてGTを誘導してバックで坂を上らせると、GTはカローラの後ろにぴったり寄せて停まった。Oは、坂の脇にスタンバイしていた立入禁止の看板を2脚、三叉路の入口に立てて自分もその入口に立って通行人やクルマをシャットアウトした。

 

幸い、通勤通学のピークが過ぎたこの時間に、坂を通る人はほとんどいなかった。クルマが1台通過したのみである。Oが三叉路の入口で交通規制をしている間、坂の中腹ではノエルと少年Sが現金抜き取り作業を行っていた。2000GTのトランクの中には、大型のボストンバックが4つ準備されており、ノエルと少年Sはジュラルミンケースから、給料封筒に入れられた現金の束を次々にボストンバックに移し替えていった。

 

午前9時44分

府中刑務所沿いの学園通りで起きた現金輸送車強奪の発生から20分後、警視庁ではようやくこの事件を認識して警視庁通信指令室から全署に緊急配備を指令。都内の900カ所以上で検問体制が敷かれるが、この段階では黒塗りのセドリックしか警察はマークしていない。

 

すべての現金抜き取りを終えた2人は、ジュラルミンケースをカローラの後部座席に戻し終え、現金の入ったボストンバックは2000GTの後部座席に置かれた。Oは、2000GTの助手席に載っていたハンディトーキーを回収してトラックへと運び、立入禁止の看板もすべて撤去してトラックの荷台に載せた。こうして、現金抜き取りは、誰の目にも触れることなく終えられたのだった。

 

三楽の坂に通じる細い坂の中腹。ノエルと少年Sは、この死角のなかで現金抜き取り作業を行った。 ※写真はイメージです

 

共犯者の3人は、この場所から3つに分かれて逃走をする。現金を積んだ2000GTに乗ったノエルは、自分の住む家があるアメリカンヴィレッジへ。空のジュラルミンケースを積んだカローラに乗った少年Sは、小金井の本町団地へ。作業着の格好をしたOは自宅の庭へと向かった。まだ、大々的な検問が敷かれる前だったため、3台のクルマは数十分後には無事に目的地に着くことができた。

 

最も危険なクルマは、空のジュラルミンケースを後部座席に積んだ状態のカローラである。しかし、三楽の坂から一番近いのは本町団地だ。少年Sは、慎重にクルマを走らせて本町団地の来客用駐車場にカローラを駐めてエンジンを切ると、ジュラルミンケースの上にかけていたシートカバーをクルマに被せて団地を後にした。

 

午前10時

賭博師Oはトラックで一旦自宅へ戻り、ハンディトーキーを2機降ろすと、その足で以前務めていた電気工事の会社へ、いすゞエルフを返しに向かった。小平市にある会社までは、一斉検問による渋滞のためいつもの倍の40分くらいの時間がかかった。

 

三億円事件の実行に於いて重要な役割を果たしたハンディトーキー。アメリカ軍が使用していたトランシーバー。

 

トラックを駐車場の元の位置に駐車したOは、会社社長にキーを渡しに事業所のなかへと入った。朝から大雨だったため、工事の仕事は入っておらず、事業所内は暇そうである。Oが入っていくと社長はテレビで府中の現金輸送車強奪事件のニュースを見ているところだった。社長は、Oに声をかけた。

 

「おはよう、雨はまだ降っているか?」

「はい、ちょっと小降りにはなりましたが、まだ降ってます」

 

「府中で現金輸送車の事件が起きたようだな」

一瞬、Oはドキッとしたが表情を変えずにこう答えた。

 

「はい、先ほどラジオのニュースで聞きました。どえらい事件ですね」

「まったくだ。奪ったのはニセの白バイ警官だそうだ。しかし、うまくやったもんだな」

 

Oは、ニュースを放送しているテレビのほうを見ながらこう言った。

「警官の格好じゃあ、すぐに捕まるでしょう」

「そうだろうな」

 

ニュース速報に見入っている社長に、Oはキーを渡してこう言った。

「社長、トラックありがとうございました。おかげさまで、荷物は無事に運べました。トラックは駐車場に戻しておきました」

「ご苦労さん、またいつでも必要な時は連絡してくれ」

 

Oは、社長に挨拶をすると、事業所を後にして鷹の台駅まで歩き、国分寺線経由で国立の自宅まで帰った。

 

午前10時18分

小金井署本村駐在所のK巡査長は、緊急配備司令で東本町の交差点で10時10分までクルマを監視していたが、黒のセドリックは現れなかった。Kは、“ひょっとしたらあの場所ではないか”と思い立ち、自転車で独自に捜索にあたった。Kの予感は的中し、事件発生から55分後の10時18分に、西元町の笹薮のなかで乗り捨てられた現送車のセドリックを発見する。Kからの通報を受けた警視庁では、10時20分にセドリックの手配を解除して、ジュラルミンケースを3つ積んだクルマに捜査対象を切り替えた。

 

 

午前10時23分

ノエルは、強奪した現金を載せ替えた2000GTで、恋ヶ窪方面から熊野神社通りを経由して16号に入り、アメリカンヴィレッジのある立川基地へとたどり着いた。途中、警察の検問は何カ所かあったが、現金輸送車とは車種も色も違うスカイラインが網にかかることはなかった。

 

ヴィレッジへと無事にたどり着いたノエルは、2000GTを来客用駐車場に駐めると、クルマにシートカバーをかけて自分の家へと戻った。居間のソファに座ってテレビのスイッチを入れると、現金輸送車強奪事件のことが大きく報道されていた。こうして、1968年4月から主犯のO、実行犯のノエルと少年Sによって進められてきた、前代未聞の大事件の幕は切って落とされたのである。

 

三億円事件を速報する夕刊記事 1968年12月10日 朝日新聞記事より

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