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オリジナル小説「秘密の八重歯」第五章 – 10

あまりにも急過ぎる仲間の死

事件から5日後の1968年12月15日深夜、少年Sは恋ヶ窪の戸倉にある自宅の2階で、父親が以前購入して隠し持っていた青酸カリを飲んで中毒死する。死因は自殺とされるが、今持ってこの事件にはいくつかの疑問符が残されている。

 

Sが中毒死をする日の昼過ぎ、警視庁立川署の捜査員2名が、9月に少年鑑別所の施設から脱走を図った少年Sの逮捕状を取ってSの自宅を訪ねてきた。少年Sをマークしていたのは府中の特捜本部だけではない。立川署でも三億円事件の最有力容疑者として少年Sを独自に捜査していたのだ。

 

Sはその時、自宅の2階にいたが、母親はSをかばって“息子はここにはおりません”と伝えている。立川署の刑事2人は、それ以上は押さずに「分かりました。それではお父さんに話しておきます」と言って帰っていった。この日、仕事から帰ったSの父親は、Sを激しく叱って殴りとばしたという。それから数時間後、Sは青酸カリを飲んで不可解な死を遂げてしまう。

 

青酸カリ(シアン化カリウム) ※夕刊フジより

 

“息子が苦しんでいる”との119番通報を受け、北多摩中央消防署から救急隊員が現場に到着したのは12月15日午後11時47分のことだった。隊員たちが着いた頃にはSはすでに危篤状態で、桜堤診療所に搬送されたときには、すでに脈がなかった。午前1時30分、Sの死亡が確認された。

 

Sの4畳半の部屋には、ノエルから借りた洋楽のレコードがあり、その下には妹宛てに書かれた便箋2枚の遺書が残されていた。

 

ー「死ぬということは美しいものだ。ぼくは前からそう考えていた。この世の中は醜い。父も母も憎い。父と母にあるのは虚栄心だけだ。君は決して僕の二の舞を踏んではいけない。強く、明るく、清らかに生きて欲しい。(中略) これで父も世間に顔が立つだろう 43.12.15.2.00」ー

 

この遺書は、密かに警視庁の科学検査所に送られ、12月6日に日本信託銀行に届いた脅迫状との筆跡鑑定が行われた。その鑑定結果はシロだった。また、Sの血液型はA型で、脅迫状の切手から採取されたB型とは異なっていた。そして、8月21日の消印が押された多摩駐在所への爆破予告が送られたとき、Sは練馬の少年鑑別所に収容されていることから、単独犯と仮定した場合はSのアリバイが成立することが後の捜査で判明する。

 

捜査本部では、12月16日に行われた通夜の席で、現金輸送車に乗っていた行員4人に刑事のふりをさせてSの遺体との面通しを行っている。4人の意見は「おおむね似ている」というものだった。つまり、仮に複数犯だと仮定した場合、Sはクロである可能性が非常に高かったのだ。それにも関わらず、この後少年Sの捜査は、ごく一部の幹部だけが扱える特命任務へと切り替わるのである。

 

世間を大きく揺るがせた三億円事件の容疑者が、白バイ警官の息子であることを問題視した当局の組織的な隠蔽と見られても仕方がない通達である。当時、捜査本部で少年Sを捜査していた本庁の刑事たちも強い疑問を感じずにはいられなかった。

 

少年Sの死が明るみになった日から、15日後の12月21日、警視庁では三億円事件実行犯のモンタージュ写真を発表した。しかし、このモンタージュ写真は、すでに事件前に事故死していたある工員の顔をそのまま流用した写真だったのである。銃刀法違反で逮捕歴のあった工員の顔が、たまたま少年Sに酷似しているという理由から作成されたモンタージュは、この事件を迷宮化させてしまう大きな要因となったのだった。

 

 

少年Sの死は、ノエルにとっては一際ショッキングな出来事だった。立川駅前のデパート屋上ではじめて出会って以来、Sはノエルにとって唯一無二の親友であり、いわば兄弟のような存在だった。アメリカンヴィレッジの外で体験する東京の原風景の片隅には、常にSの姿があったのだ。そんな兄弟のような存在だったSの死は、簡単に受け入れられることではなかった。

 

一方、賭博師OにとってもSの死がショッキングであったことに変わりはない。Sの、向こう見ずで破天荒な生き方には、正直ハラハラさせられることも多かったが、現金強奪の実行犯という最も危険な役をさらりとやってのけたのは、Sの持てる技以外の何物でもなかったろう。

 

ノエルにしても、OにしてもまさかあのSが自殺をするとは思いもよらぬことだった。しかも、8カ月にも渡って準備してきた今回のヤマが成功したあとで、何故自らの命を断つ必要があったのだろうか。少学生の頃から、確信犯的なアウトローだったSが、今回のヤマを理由に慙愧の念に陥ったとは考えられない。むしろ、史上最大の強奪を成功させた自分を誇りにさえ思っていたに違いない。そんなSに、一体何があったというのだろうか。

 

もし、仮に一つあるとすれば、とてつもなく大きな目標を達成した後にやって来る虚脱感、あるいは人生で最も幸福なまま死を迎えたいという気持ちだろうか。いずれにしてもあまりに哲学的であり、常人には理解できない境地である。

 

ノエルにとって、自分の腹心を亡くしたことはショッキングであると同時に、彼を守ってやれなかったことへの後悔の念が強く残った。もし、彼が本当に自殺したのであれば、自分が少年Sの近くにさえ居てあげられれば、そんなことは絶対にさせなかったろう。そう思うと、ノエルはたまらなくやるせない気持ちに陥るのだった。そして、この日を境にノエルの身体にはある異変が起こっていく。彼だけが持っていたマニピュレーターとしての能力が徐々に消え失せていったのだ。

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