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オリジナル小説「秘密の八重歯」第五章 – 12

昭和の名刑事、平塚八兵衛が投入される

警視庁の特別捜査本部では、捜査員195人を動員して捜査にあたったが、1968年内中の事件解決には至らなかった。改造白バイ、盗難カローラ、現金輸送車を始めとする大量の遺留品からは、犯人逮捕へと結びつく有力な手がかりは得られなかったのである。

 

遺留品の中には、レインコートやハンチングといった、犯人がじかに身につけていたものもあったが、大雨に曝された上に何人もの刑事が、代わる代わる身につけたりというミスも重なって、犯人の血液型を特定することはできなかった。

 

ヤマハスポーツ350R1を改造したニセ白バイ(左)と本物の白バイ(右) ※「朝日クロニクル 20世紀」第6巻より

 

また、白バイの改造に使われたトランジスタメガホンは、有力な物証とされたが、盗品だったために犯人と結びつけるには至らなかった。米軍の横田基地では、同じものが使用されていたことがわかったが、それを突き止めたときには、箱も処分されていたために捜査を打ち切っている。

 

銀行への脅迫状に使われた活字と発煙筒に巻かれた回路図から、捜査本部では『近代映画』の7月号と『電波科学』の7月号という2冊の雑誌が使われたことを突き止めたが、2冊とも発行部数が多く、この2冊を定期購読している人物の特定はできなかった。

 

特捜本部では、自殺した少年Sを最有力容疑者として調べていたが、Sの遺書と脅迫状の筆跡判定の結果が一致せず、脅迫状の切手から採取された血液型とも一致しないことから、Sはシロと断定されて捜査は早い段階で打ち切られたことは先にも述べた通りだ。

 

特捜本部による事件発生直後の早期解決ムードは、一転して暗雲が立ち込める重くるしい空気へと変わっていったのだった。特に、白バイ警察官の父を持つ少年Sに関する調査内容は、臭いものに蓋をするかのように、警察内部でも徐々にタブー視されていったのである。

 

賭博師Oが、当初から言っていたように、3カ月さえ捜査の網をしのげば逃げ切れるという予想通り、特別捜査本部の発足から3カ月後には、捜査一課長が交代する事態へと発展する。昭和の難事件である吉展ちゃん事件を解決した警視庁きっての名刑事、平塚八兵衛とタッグを組んだことで名を馳せた武藤三男が後任となるのである。

 

小金井の本町団地で1969年4月9日に発見された濃紺カローラ“多摩五郎”。

 

武藤が起用されてから間もなく、1969年4月9日に小金井の本町団地で現送車からジュラルミンケースを載せ替えた濃紺カローラが発見される。そう、少年Sが現金抜き取り後に乗り捨てた逃走車だ。発見したのはトヨタのセールスマン。シートカバーのかけられたクルマを興味本位で覗いたところ、濃紺カローラの後部座席にジュラルミンケースが載っているのを確認したのだ。彼は、すぐに近くの駐在所へと出向いて通報している。

 

西元町の笹薮での目撃証言から、逃走車は12月5日〜6日に盗難された多摩5 ろ 35 19のナンバーを持つ濃紺カローラであることはすでに判明しており、捜査本部内では“多摩五郎”という愛称まで付いていた逃走車が見つかったのは、沈滞ムードを一転させる朗報となるはずだった。しかし、事件現場から5キロも離れていない場所で4カ月もクルマが放置されてきたことは、警察の大失態として強い批判が渦巻くきっかけにもなったのだった。

 

それから10日後、武藤は他の事件の調査にあたっていた平塚八兵衛に三億円事件の特別捜査本部に入ることを自ら打診しにいくが断られる。しかし、辞令が発動されるかたちで4月24日に平塚は府中の特捜部の主任として配属されることになる。平塚が最初に手掛けたのが少年Sの両親への事情聴取である。両親は三億円事件へのSの関与は否定、Sによる不透明な自殺についても両親への追求はせずに引き下がっている。

 

落としの八兵衛、喧嘩八兵衛、鬼の八兵衛、捜査の神様など、数々の異名で知られる昭和の名刑事、平塚八兵衛。

 

平塚はその後、それまでの捜査本部の主流だった複数犯説を真っ向から否定し、単独犯説を強硬に主張していく。複数犯説の根拠とされてきた緑色カローラの盗難現場に於ける物証や、第三現場での話し声証言、第二現場での複数人物の目撃証言などをすべて洗い直し、単独犯でも実行可能だった証拠や、証言の矛盾点を鋭く突いて単独犯説を全面的に打ち出していくのである。

 

平塚は、三億円事件の時効が成立する8カ月前に、健康上の理由により刑事を退職し、退職からわずか4年で膵臓がんを患って66歳の若さで鬼籍に入っている。平塚がなぜ、ここまで単独犯説を主張したのか、少年Sのアリバイが不透明にも関わらず、なぜすぐにSをシロと断定したのかはあきらかにされていない。組織という枠からはみ出してまで、真実を執拗に追ってきたはずの平塚に、いったい何があったというのだろうか。

 

捜査の神様とまで謳われた刑事が、この事件に隠された真実を知らなかったはずはない。平塚は、闇に潜んでいる30代の主犯の男を犯人像として掲げ、三億円事件の“顔”として日本国民の頭に刷り込まれたモンタージュについても、それを打ち消す捜査方針を打ち出していく。あくまで30代前後の犯人による単独犯の線を曲げずに最後までその説を貫いたのだった。

 

平塚の刑事生命をかけたかのようなこの主張は、果たして彼の本意だったのだろうか。主犯の賭博師Oの存在は、平塚が睨んでいた犯人像とぴったり符合する。その点では、平塚の目に狂いはないのだが、最後まで単独犯にこだわったのは、なぜだったのか・・。この疑問は、特捜本部の側近にも解せない、大きな謎として闇の中へと葬られたのだった。

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