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オリジナル小説「秘密の八重歯」第五章 – 13

憧れのレーサーの死、そしてクロスロードへ

親友の少年Sの死から、ようやく精神的に立ち直ったノエルは、レーシングチームに通って見習いとしての仕事に精を出す傍ら、ジムで筋力トレーニングに励んでレーサーとしての鍛錬を積んでいた。しかし、1969年2月12日、ノエルにとってふたたびショッキングな出来事が起こる。

 

兼ねてからの憧れであり、レーシングチームの先輩を通じて何度か会ったこともあるレーサー兼モデルの福澤幸雄が、静岡県袋井市のテストコースでレーシングカー、トヨタ7のテスト中に事故を起こして25歳という若さでこの世を去ったのだ。

 

 

福澤幸雄 フランスのパリ生まれのレーサー兼ファッションモデル。

 

フランスの日本大使館に勤務していた父と、ギリシャ人ソプラノ歌手の母を両親に持つ彼は、福澤諭吉の曾孫としても知られ、当時のファッションリーダー的存在だった。米国領事館に務める母と、米空軍佐官の父を持つノエルともどこか似た境遇であり、一流のレーサーでもあった福澤にノエルが憧れたのも当然だったかもしれない。

 

ちょうどその頃、福生のアメリカンハウスに住むウォーカー大尉は、黒い帽子にトレンチコートという出で立ちで愛車のムスタングに乗り込むと、横浜の米国領事館近くにある銀行へと向かってクルマを走らせた。81万4千838ドルの預金を日本円に換金する手続きを行うためだ。当時は、1ドル360円という固定相場制だったため、日本円にすると2億9千3百34万1千680円にも上る大金だ。

 

現在も福生に残るアメリカンハウス。広い庭に平屋建てが特徴的。

 

ウォーカーは、この日本円を2つの銀行口座に分けて入金手続きを行った。1億4千600万円ほどの現金が2つの口座にそれぞれ振り込まれた。当時は、これだけの大金でも、特別な身元確認の必要もなく簡単に新しい口座に現金を振り込むことができた時代だったのだ。

 

銀行で手続きを終えたウォーカーは、約3億円の大金が振り込まれた預金通帳を届けに、賭博師Oと待ち合わせている国分寺市の恋ヶ窪緑地に向かった。エックス山と呼ばれるこの緑地には、森林の中で道が交差するクロスロードがある。

 

そう、この場所は1945年の12月に火の玉が落ちた場所だったのだ。ウォーカーは、最後にOと会う場所として、このエックス山のクロスロードを選んだ。自分の生きてきた人生のなかで、運命的な何かを意味するかのように、必然的に頭に浮かんだ場所だったからだ。

 

西恋ヶ窪緑地内にある分かれ道。今はなきクロスロードの面影が残る。

 

薄暗い雑木林の中を歩いていくと、その中央付近に林道がエックス状に分かれる場所がある。ウォーカーがゆっくりと歩を進めていくと、そこには賭博師Oが先に来て煙草を吸いながら待っていた。Oは、黒い帽子にサングラス姿のウォーカーを見つけると、軽く会釈をして吸っていた煙草を雑木林に向かって投げつけてからこう言った。

 

「やあ、それにしてもこんな場所を指定してくるとは、あんたらしくないな」

「心配はいらない・・安心したまえ。約束通りに一人で来たよ」

 

「こっちは、ちょいと緊張してたんだ。こんな寂しい森林の十字路だ。ハジキで撃たれて埋められちまってはたまらんからな」

「君と会うのも、今日が最後だ。だから、わたしはこの場所を選んだ」

 

「ほう・・それはまた、どういうことですか?」

「わたしは、戦後間もなくGHQの通訳として立川基地へとやってきた。その年、ちょうどこの近くに火の玉が落ちたんだ」

 

「火の玉?」

「そう、空から落ちてきた隕石だよ・・。わたしは、MPの通訳としてその隕石を探しにこの場所へとやってきた。しかし、その隕石はいくら探しても見つからなかった」

 

「だから今日、ここを選んだというわけか?」

「そうだ。隕石を見つけられなかった代わりに、わたしは今日、ここで何かを見つけられると思ってやって来た」

 

「よく分からない話だな・・それで、約束のモノはどこにある?」

Oがそう聞くと、ウォーカーはゆっくりとうなずいて、胸ポケットから銀行通帳の入ったビニール袋を2つ取り出してそれをOに渡した。袋には印鑑が1個ずつ入っている。

 

Oは、袋から通帳を取り出すと金額を確認した。

「マネーロンダリングの手数料と、為替手数料にかかった分を差し引いて2つに割った金額だ」

ウォーカーがそう言うと、Oは納得したようにうなずいてビニール袋を黒い革ジャンパーの胸ポケットにしまって、太いクヌギの木のほうを見つめて合図をした。

 

「誰か他にいるのか?」

ウォーカーが驚いて身構えると、木の陰に隠れていた若い男が現れた。ノエルである。Oは、ビニール袋の1つをノエルにその場で手渡してからこう言った。

 

「用心のために、仲間に来てもらっただけだ。あんたに危害を加えるつもりはない」

Oがそう言うと、ウォーカーはノエルのことを感慨深げに見つめてからこう言った。

 

「まるで、わたしの若い頃のようだ。君は仲間の一人だな?」

「ハイ」

 

ウォーカーとノエルが歩みよって握手をしようとした瞬間、突然大きな雷鳴が轟いて大粒の雨が降り出した。ふたたび雷の稲妻が光ったとき、ノエルの八重歯に詰まった隕石がまるで生き物のように鈍く輝くのをOは見た。そして同時に、ウォーカーの歯にも同じ色に輝く物質を確認したのだ。

 

互いに日本人の母とアメリカ人の父を持つノエルとウォーカーは、20歳ほど年は離れていたが、通じ合うものがあった。ノエルは、Oの背後にいた謎の男とこうして会うことができたが、なぜか初めて会うような気がしなかった。ウォーカーにしてもそれは同じである。何故なら、2人は立川基地で以前にも何度か会ったことがあったからだ。

 

やがて雨は小降りとなり、エックス山のクロスロードに立っていた3人は、そこで別れを告げて別々の道を歩いて帰った。恋ヶ窪緑地から熊野神社通りへと出たノエルは、路上に停めてあったスカイライン1500に乗ると、先ほどセンパイOから渡された銀行通帳を見た。そこには、146,000,000と数字が印字されていた。1億4千600万円は、とてつもない金額だ。現在の価値にすれば、10億円相当と言っていいだろう。

 

プリンス スカイライン1500 1963年型

 

ノエルは、運転席側の激しく潰れたスカイライン1500のドアを見て、独り言をつぶやいた。

「もう、オマエともこれでおさらばだ。ドアを直して乗るつもりだったが、新しいのを買うことにするよ」

ノエルは、コードを直結させてスカイラインのエンジンをかけると、小金井の本町団地に向かってクルマを走らせた。

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