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オリジナル小説「秘密の八重歯」第五章 – 14

世紀の完全犯罪に隠されていた極秘工作

いつの日か、少年Sと約束した話をノエルは思い出していた。大きなヤマを越えて、すこし大人になったら、海岸沿いの家に住んでバーでも始めるよ・・そんな話だったと思う。もし、そのときは、アメ車に乗って遊びに行く約束をしたのだが、そんな夢もSの死で叶わなくなってしまった。

 

ノエルは、センパイOと2人で山分けした1億4千600万円の使い道として、1つだけ決めていたのは、好きなクルマを1台購入することだった。それまでは、小金井の本町団地に駐めてあるスカイライン1500とブルーバード510が自分のクルマだったが、盗難車であるこの2台には肝心のキーがない。他にも、Sが盗んだスカイライン2000GTやサニーデラックスもあったが、今はなきSのことを思うと、とてもその2台を乗り回す気にはなれない。

 

日本が生んだ伝説的スポーツカー トヨタ2000GT

 

ノエルは、つい先日亡くなったレーサーの福澤幸雄が乗っていたトヨタ2000GTを買うことに決めた。新車価格で238万円もする高級車だったが、今のノエルにはどうということのない金額だ。新車のカローラが6台も買えてしまうメイド・イン・ジャパンのスポーツカーである。現金でこのクルマを買える人間もそうそういない時代に、ノエルはトヨタ2000GTをキャッシュで買った数少ない一人となった。

 

一方のセンパイOは、国立の自宅を引き払ってハワイへ移住する計画を立てていた。いずれ、三多摩地区には全域に渡って捜査の網が引かれることはあきらかである。Oは、一斉捜査が入る前にハワイへと移住して、何の心配もせずにそこで優雅な生活を送るのが次の人生のステージだと考えていたのだ。

 

ノエルとセンパイOは、エックス山のクロスロードで会って以来、一度も会うことはなかった。お互いに、たまに会いたいと思うことはあったが、警察のマークが厳しくなっている今の世情を考えると、2人が会うのはあまりに危険すぎるように思われたのだ。2人の連絡は手紙を通して行われるようにはなったが、時の経過とともにそれもやがて途絶えるようになっていく。

 

代わりに、ノエルの良き相談相手になってくれたのは、クロスロードで出会ったウォーカー大尉だった。買ったばかりのトヨタ2000GTを街で乗り回していたとき、偶然Yナンバーのムスタングを見つけたノエルは、その後ろに着いていって福生のアメリカンハウスへと入っていった。

 

往年のアメリカンハウス ※ふっさハウスを守る会より

 

ムスタングがウォーカーの住む庭に駐車されるのを確認したノエルは、2000GTから降りると、ウォーカーが入っていった家の玄関に歩いていってドアをノックした。玄関先に出てきたウォーカーはノエルを見て驚いてこう言った。

 

「君は・・たしかクロスロードで会った彼のようだね」

「はい、その通りです」

 

「なぜ、ここが分かったんだ?」

「実は、あなたの乗っているクルマを街で見かけたんです」

 

「ほう・・しかし、わたしのクルマをなぜ知っている?」

「実は、Oの家の前であなたのクルマを見かけたことがあるんです。ボンヤリした記憶だったんですが、さっき街で見かけたときに気がつきました」

 

「なるほど・・まあ、立ち話もなんだから、どうぞ中へ入りなさい」

ウォーカーは、そう言うとノエルを部屋の中へと招いてくれた。サングラスをしていない素顔のウォーカーは、自分が幼い頃に一緒に遊んでくれた基地の兵隊とよく似ていた。

 

「ノエル・リチャードです」

ノエルがそう言うと、ウォーカーは“やっぱりそうか”という表情をしてこう言った。

 

「ノエルだね、僕は君がまだ小さい頃に、何度か一緒に遊んだことがある。覚えているかい?」

「いいえ、ハッキリとは覚えていませんが、なんとなくは思い出せます」

 

それから2人は、当時まだノエルが小さかった頃の話や立川基地での懐かしい話に花を咲かせた。ウォーカーも、同じ日系人として生きてきた素顔を持つ。ただ、ノエルと大きく異なるのは、太平洋戦争中に彼は日系人であることを理由にひどい差別や迫害を受けたことだ。そんなことから逃れるには、自ら志願して軍隊に入る以外に道はない。アメリカへの忠誠を誓うのにこれほど適した職業はないからだ。

 

日本語が堪能だったウォーカーは、戦後の日本占領下における貴重な通訳としてGHQで働くようになり、原宿のワシントンハウスに長らく住んだあとは、横田基地へと配属されて福生のアメリカンハウスへと引っ越してきた。ノエルの母親キヨも、同時期にGHQで通訳をしていたことを思えば、もしかしたらウォーカーと母はどこかですれ違っていたのかもしれない。

 

ウォーカーが、あの大きなヤマとどう関わってきたのかを話すことはなかったし、それについては触れるべきではないだろうことはノエルも察していた。しかし、何度か会って話すうちに自分たちには共通点があることに2人は気づいていく。

 

ウォーカーは、ノエルと同様に同世代の人間を自分の意のままに操ることができる、マニピュレーターという特殊な能力を備えていたのだ。1946年に水道橋の歯科大学にあった隕石を押収したGHQでは、この隕石がもたらす不思議な力の研究を進めており、ウォーカーはその実験台として自らの身を捧げたのだ。隕石の一部が歯に埋め込まれると、ウォーカーは徐々にマニピュレーション能力を備えていった。

 

中央情報部(後のCIA)では、この隕石を埋め込んだマニピュレーターを何人か育て上げ、その能力を数々の秘密工作に使わせる極秘訓練を推進していたのである。ウォーカーは、これを機に中央情報部の一員となり、CIAスパイという別の顔を持つようになったのだった。境遇の差こそあれ、ノエルの母であるキヨと同じ運命を彼は辿ってきたのだ。

 

写真 Stokkete / Shutterstock.com

 

1968年の1月、ウォーカーは元警察官の賭博師Oをエージェントとして雇って秘密工作を進めてきた。そのシナリオは、あるCIA幹部が考えたものだった。立川基地の滑走路拡充への反対運動からはじまった砂川紛争を発端に、新左翼による学生運動が盛んになるのを脅威に感じていたCIAでは、これらの学生たちが多く住む三多摩地区を一斉に取り締まるローラー作戦を実施するための大義名分が必要であると考えていた。

 

そこで、かつてない規模の現金強奪事件をこの地域で起こすことで、三多摩地区の学生たちを根こそぎ取り締まるための名目を得るのが、その裏に隠されたシナリオだったのだ。もちろん、このことを知っているのはこの謀略に携わった一部の者だけである。そこで、ニセ白バイ警察官による犯行を、実際の白バイ警官の息子にさせることで警察内部を内側から制御し、事件解決を遅らせることで長きに渡って三多摩地区の学生運動家たちを囲い込むというのが本当の目的だったのだ。

 

ウォーカーに課されたミッションは、ハリウッド映画のように派手な現金強奪事件を企図し、それを第三者に実行させて成功へと導くことだった。実行犯役としてSをリストアップしたのもCIAである。アメリカ政府の機関が、現金強奪事件を計画するとは、にわかには信じられないことだが、それまでに諜報機関が関与してきた数々の謀略を知らされれば、これくらいはまだ序の口だと言わざるを得ないだろう。

 

実際、この事件で被害を被った機関は日本には存在しなかった。銀行では、損害保険に加入していたが故に、この事件の被害額はまるごと海外の保険会社からおりたからである。

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