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世界に一つのターンテーブル

回転する何かを一緒に作ろうよ

2024年の7月25日に急逝してしまったDJの矢部 直(United Future Organization)。彼とは、2023年6月に神宮前の「ボノボ」で会って1時間ほど話したことがある。DJタイムが終わった後で2階の座敷でくつろいでいる時のことだ。オーナーの成ちゃんも一緒だったと思う。その1カ月くらい前に代々木公園で“Vinyl Air Play”というデモを行ったのだが、そこで彼の音源を使わせてもらったので、その礼を言いに行ったのだ。

 

 

彼のことは、U.F.O.時代から知っていて、’90年代前半に「Blue」「バー青山」等のクラブで行われていた“Jazzin’”をよく聴きに行っていた。当時、U.F.O.は人気の絶頂期で彼らがプレイする日はどのクラブも満員だった。楽器を演奏しない3人のDJユニットがCDを出すという斬新さも話題になったが、個人的にはジャズで踊らせるという彼等のコンセプトが好きだった。

 

ジム・ジャームッシュが大学の卒業制作で1980年に制作した「パーマネント・バケーション」では、すでにチャーリー・パーカーの曲に合わせて主人公が踊るシーンがあったが、実際のクラブでジャズを素材に客を踊らせたのはU.F.O.が初めてだった。日本よりも先にロンドンのジャズチャートで1位を獲得するなど海外での評価も高かった。

 

「ボノボ」でわたしの自作スピーカーを見てもらったのをきっかけに、話がはずんで最後は「回転する何かを一緒に作ろうよ」とまで言ってくれたのだが、それからあっという間に1年が経ってしまい、そろそろ連絡をとらねばと思っている矢先の訃報だったのでショックも大きかった。わたしの頭の片隅には彼が言っていた“回転する何か”というテーマがずっと残っていて、それは2024年7月25日以降さらに肥大化していった。

 

 

“回転する何か”の答えはDJの必需品

彼との会話では具体的な方向性が示されたわけではないが、DJが言う“回転する何か”といえばターンテーブルがすぐに思い浮かぶ。しかし、DJ向けのターンテーブルをモチーフにするのは最初から考えになかった。カラーリングを変えたり独自にペイントしたようなモデルは既に存在するからだ。レコードプレーヤーといえば、構造上もっとも大きな面積を占めるのがレコードマット部分である。従って、マットを独自にデザインすればそれなりにオリジナル感は出せるはずだ。しかし、ただそれだけでは面白くない。

 

 

 

そんな時に、国立新美術館で開催されていた『田名網敬一 記憶の冒険』の展示に触発されて、全体をコラージュのような作品にしてはどうかと考えた(ちなみに田名網敬一も矢部直の死からわずか2週間後に亡くなっている)。素材はなるべくレコードや音楽に親和性のあるものが良い。そこで浮かんだのがミュージシャンの絵柄を用いたコラージュだった。筐体全体を一人のアーティストで統一することも考えたが、それではどうしても偏ったものになってしまう。しかし、多数のアーティストが散りばめられていれば、どんなレコードでも違和感なく聴けるのではないだろうか。

 

 

そうして出来上がったのが今回の作品だ。1960〜70年代のコンサートビジュアルを無秩序にレイアウトしていくとサイケデリックな風情となる。レコードマットは交換できるので、デザインを変えればガラリと雰囲気が変わるのも面白い。ところで、このレコードプレーヤーは底部にスピーカーが組み込まれているので単体でも音は出る。しかし、その貧弱な音をカバーするために、次は専用のスピーカーを作るつもりだ。どんな仕様になるかは追ってこのブログで紹介するつもりなので、楽しみにしていてほしい。

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