アカサカベースのロボット第1号誕生ストーリー
ロボット制作のきっかけは映画『ロボットドリームズ』だった‼
それは、2024年12月3日に高円寺三角地帯のバーで行われた映画『ロボットドリームズ』の封切り酒場イベントがきっかけだった。オーナーの川井さんからこのイベントに誘われたのは11月中旬過ぎだったろうか。話によると、現在封切りしたばかりの映画にわたしとそっくりな登場人物がいるとのことで、興味があるなら映画鑑賞後に高円寺のバーで映画について語り合いませんか?という内容だった。
普段、この手のアニメはあまり観ないわたしだが、自分に似たキャラがいるとなれば話は別である。そこで、まずは映画を観に新宿武蔵野館へと足を運んでみた。映画は、一切言葉がない設定で主人公はイヌとロボット。時代は1980年代半ばのニューヨークが舞台となっていた。ストーリーはネタバレになるので詳しく書かないが、映画が進行する中で自分らしいキャラが全然登場する気配が無く、失敗したな…でも、面白いからいいかと思っていると後半になって、まさにこれはわたし以外の何者でもないキャラクターが登場した。

そのキャラクターとは、ビルの屋上にあるペントハウスに住んでいる管理人で、スクラップ工場で廃材を安く買ってきては、さまざまなモノを製作するのを趣味としているラスカルという名のクマ(笑)。このラスカルが買い取ったロボットの一部が復活して感動のラストへと続いていくという展開だった。映画は単館ロードショーで始まったが、観た人の口コミでロングランしており、これを書いている2025年1月21日時点でまだ上映中なので興味のある方は観に行ってみてほしい。
封切り酒場で“本物のロボット作家”と出会う‼
映画を見終わったわたしは、一人で新宿の居酒屋で映画を思い出しながら場面を反芻していた。どうやら、時代背景は1980年代半ば…そういえば、わたしは1987年1月に一人でニューヨークを旅して歩いたことがある。ちょうどその時代を描いているのは、登場する風景やクルマ、映画に出てくるテレビの効果音等で分かったので、家に帰ってニューヨークで撮ったスライドを確認してみた。
まさに、そこに写っていたのは映画の舞台であるN.Y.の断片に他ならない。そんな時、バーオーナーの川井さんが年代モノのスライドプロジェクターを購入したのを知ったわたしは、封切り酒場でスライド上映会をやりませんか?とメールしたのだった。快くそのアイデアを受け入れてもらったので、わたしの頭の中はしばらくの間、1987年頃のニューヨーク一色の数日を過ごすことになった。
イベントの当日、バーの扉が開くまでの時間を店頭のイスに座って待っていると、そこにユキヒロさんという方がやって来て声をかけられた。嬉しいことにわたしに会いに来てくれたのだという。名刺交換を済ませた我々は、扉が開いたバーに招かれて飲み物を注文した。オーナーの川井さんが接客してくれたので、三人でしばらく雑談していると他の参加者の方もやって来て、いつの間にかディープな映画談義に花が咲いたのだった。

スライド上映も終わり、ユキヒロさんとはまた近いうちに会う約束をしてその日は帰ったのだが、なんとそれから二、三日後には我がアカサカベースに遊びに来てくれるという思いがけない展開へと進展したのだった。ユキヒロさんは、手のひらサイズのベア型ロボットから人が入れる着ぐるみまで製作しているロボット作家で、その作品を見せてもらったわたしは、その影響を受けて自分もロボットを作らねば!と一念発起したのだった。
ロボットの素材を探していると眼の前のラジオが微笑んでいた❣
ユキヒロさんと工房のパティオで雑談しながら製作するロボットについて思いを巡らしていると、机の上に置いてあったCDラジオが目に入った。このラジオは、6年前に散歩をしている時に見つけた廃棄物で“ご自由にどうぞ”という紙が貼られているのをもらってきたものだ。持ち帰ってみるとどこにも異常はなく、一緒に捨ててあったお掃除ロボットRoomba(バッテリー交換するだけで問題なく使えた)と共に我が工房で使わせてもらっていたもの。
ラジオのかたちそのものが、ロボットのヘッドにピッタリだと閃いたわたしは、早速シミュレーションを行った。はじめはロボットのボディに、昭和のブラウン管テレビかオールドマックのSE/30を使う方法が浮かんだ。中古で探してみると、SE/30は値段が上がってしまっていて手頃なものが無く、ブラウン管テレビは放送を受信させるにはなかなかハードルが高い。また、ヘッドとボディが家電製品では創作としては少し安易な印象を受けるのも事実だ。
Macintosh SE/30はかつて愛用していたパソコン。昭和の14型ブラウン管テレビは、子供部屋によく置かれていた
決心してボディはすべて自作することを選択‼
いろいろ試行錯誤した結果、ボディパーツは木工で製作することに決めた。木工なら設計の自由度は高くなるので作り甲斐もある。さっそく、設計図を描いていくなかでイメージしたのは、ロボットのボディにIC回路を埋め込むことだった。秋葉原へジャンクパーツを物色する際にユキヒロさんにも付き合ってもらって色々アドバイスをいただいた。
ユキヒロさんは、電子パーツの抵抗をモチーフにしたロボットも作っており、秋葉原の電気街にも精通している。しかし、数年前までは残っていた電子パーツのジャンク屋は今ではどこも閉店しており、あるのはハードオフくらいで思うようなIC回路は手に入らなかった。ロボットの顔となるラジオのスピーカー部分には光るLEDを取り付けるつもりだったのだが、そこには丸い形をした通称“イカリング”が良いよと教えてくれた。
工房へと戻ったわたしは、図面を描きながらIC回路だけでは冷たい印象になると思って、理科の実験室に置いてある人体模型の臓器を取り付けたいと考えた。そして、実家に置いてあった四角いサイレン(警告アラートのようなもの)を腹部に取り付けることでボディ部分のデザインは概ね出来上がった。

IC回路と心臓の模型を入手して木工製作の段階へ
IC回路は秋葉原から帰る途中にちょうど良さそうなパーツをフリマサイトで見つけ、心臓模型は安価な新品をアマゾンで買うことができた。これで、ボディに付けるパーツが揃ったので、これらのサイズに合わせてボディ表面の図面を手書きで描いた。サイズはLPサイズと同じ縦横31cmで設計し、ボディ内部は裏面を開閉式にして電源コード類を格納できる仕様にした。ボディ上面には首が入るサイズの丸穴、両側面には腕が入る丸穴を開ける必要がある。

木工製作には予想以上にお金がかかってしまい、イカリングや腕、足のパーツなども含めると数千円で済ませるつもりが万単位の出費となった。これで失敗は許されないと自分を奮い立たせ、12月から1月にかけては久しぶりに創作に没頭する日々が続くのだった。夜寝床に入るときの枕元にはロボット図面がある…そんな毎日である(笑)。
ロボット製作最大の難所は塗装だった‼
木工によるボディの製作までは比較的順調に進んでいった。この段階では、足部分の製作は考えておらず、ロボットの胴体は工房にあるスツールを使う予定だった。従って、塗装をして腕を取り付けたら目にイカリングを固定すれば晴れて完成のつもりだった。今回の製作でもっとも難しかったのは、木工部分への塗装である。市販の金属メッキ風スプレーは使い勝手は良いものの、木工への塗装には向いておらず、塗装に時間がかかる上に乾いたあとも少し触っただけで塗装面に指紋などの痕がついてしまう。
そのため表面をコーティングしようとクリアラッカーを吹いてしまうと、表面から輝きが消えてただのグレーになってしまうらしい。ユキヒロさんに相談しても答えは同じで、とにかく時間をかけて自然乾燥を待つ以外には得策がないことが分かった。金属メッキスプレーは予備を踏まえて3本買い揃える必要があった。もしやり直すなら、普通のシルバー塗装をした上で、クリアラッカーでコーティングする方法を選ぶだろう。

オモチャのマジックハンドの手を取り付ける
2024年は腕を取り付けるまでの工程まで進んで、年越しを迎えることになった。腕の先端に取り付ける手のパーツはオモチャのマジックハンドを分解して取り付けることにして、先に注文していたイカリングと共にその到着は年明けの予定である。新年早々に右手のマジックハンドが届いたので、早速分解してみると簡単に右手は用意できた。しかし、マジックハンドの左手はいくら探しても見つからない。そこで、オーソドックスな赤色のマジックハンドを分解してメッキスプレーで色を塗った。

イカリングの接着に手こずるが、なんとか無事に終了
続いてイカリングの接着だ。スピーカーの外周とほぼ同じサイズの10cmΦのものを頼んでたので、仮当てしてみるとピッタリとハマりそうである。ただ、CDラジオの筐体は微妙に湾曲していて真っ平らではない。そこで、弾力性のある多目的接着剤を使ってイカリングを軽く曲げて接着することにした。この接着が中々の難易度で、まずは大きめの太い輪ゴムを通販で購入。両目に取り付けるまでに4日ほどの時間を要した。接着剤が完全に固着するのに24時間かかるのがその理由だ。

予定を変更して、ロボットの足を取り付ける
当初はロボットの足は省略して3脚のスツールを使うつもりだったが、上半身までの製作を終えると、ここまで来たのだからやっぱり足を取り付けてあげたい気持ちが沸々と湧いてきた。ロボットを二足で自立させるのは中々ハードルが高く、今回の創作は上半身にそれなりの重さがあるため、しっかりした足でなければならない。
試行錯誤を重ねた結果、まずは脚のベースとなる素材にエアコンダクト用のパイプを使うことを思い立った。まずはボディを載せる台として同じサイズにカットした鉄板を使い、そこに20cmのパイプに金属メッキ塗装したものを二脚接着して立たせてみた。短足な見た目のロボットにはなるが、コンパクトに収まるので置き場所の自由度は高い。

しかし、二足歩行する人間の脚には膝があって、そこが折り曲がるからこそスムースに歩ける訳で、それが無い状態では、まるで“かかし”のように突っ立ったままという印象が濃くなってしまう。そこで、パイプを更に二本追加して脚と足のパーツを分ける二段構造にすることを思いついた。脚と足の間には膝のパーツとなる骨組みパイプを通すことで、見た目も二足歩行ロボットらしくなる。
ホームセンターで骨組み用のパイプを探しに行くと、丁度よい太さのパイプがあったので、ロボットの脚の長さにカットしてもらうことにした。問題は、地面と接する足のパーツをどうやって作るかという点だ。カットしてもらっている間に、平べったい足(靴の部分)の素材をどうするか考えていると、頭に浮かんだのは“弁当箱”だった。

さっそく昭和の小学生が使っていたような楕円形のアルミ弁当箱を探したが、ホームセンターには売っておらず、同じビルに入っている百均ショップへ行ってみると、弁当箱の代わりにプラスチック製の食器が目に入った。それは、持ちやすいようにデザインされていて、ひっくり返すとちょうどロボットの足にピッタリなかたちをしている。これ以上のモノはないと確信したわたしは、それを2個買って工房へ帰ってきた。
足パーツを取り付けてみると、歩き出しそうなロボットになった‼
足のパーツとなる素材をすべて取り付けてみると、短足版とは違って二足歩行できそうな印象へと様変わりしたロボットがそこにいた。映画「ロボットドリームズ」では、さまざまな廃材を使ってロボットの形になると途端に生命が宿って動き出すのだが、さすがに本物は動いてくれない。
しかし、ラジオをオンにして音を流すだけで、まるでロボットに命が宿ったかのような印象を受けるもので、更に音楽に合わせて目の色が変わるイカリングのおかげで、まるでロボットにも意思があるかのような錯覚さえ覚えてしまうのだから、人間の感覚というのは不思議である。工房には、スマートスピーカーがロボットのすぐ脇に設置されているので、AIに喋らせるとまるでロボットが話しているように聞こえるのが面白い。

ボディは裏側が開く構造にしてあるので、ボディ内部にスマートスピーカーを仕込んでしまえば、人工知能付きの喋るロボットとしても使えるという発展性も備えている。これで、1カ月半を費やしたアカサカベースのロボット第1号はほぼ完成となった。股下部分の脚が少し長すぎると思ったので、それを払拭するために黒いゴムを股部分に履かせる予定だ。そうすることで、もっと自然なスタイルに変わるに違いない。
完成した暁には、ロボットに何という名前を付けるかを検討中だ。スマートスピーカーには、ウェイクワードを変える機能があるのでロボットにスピーカーを増設した際には、現状の“アレクサ”からロボットの名前に変更するつもりだ。当初は“ラジオボーイ”と名付けるつもりだったが、あまり長いと使いづらいので、もっと短い名前が良いかなと思う今日このごろである。

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