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ムーディーレコードの誘惑 第3話

シェリー・カリー「ビューティー&ワイルド」

シェリー・カリーは、女性ロックバンドの草分け的存在である、ランナウェイズのリードヴォーカルだったアーティスト。このアルバムは、ランナウェイズ脱退後の1977年に発売された彼女のファーストアルバムだ。ちなみに、ランナウェイズはその直前に日本へ来日していて、ビートルズ来日以来と言われるほどの熱狂で迎えられている。

 

 

ランナウェイズでは、“下着姿”と形容された衣装で歌う姿がセンセーションを巻き起こし、また女性だけのハードロックバンドというのも前例がなかったため、大きな反響を呼んだのだった。しかし、2010年に映画化された「ザ・ランナウェイズ」でも描かれているように、シェリーにとってはそうしたステージ衣装ばかりが脚光を浴びるのは本意ではなかったらしく、人気絶頂にも関わらずあっさりとバンドを脱退してしまう。

 

その脱退からわずか数カ月後に発売されたのが、この「ビューティー&ワイルド」(原題:Beauty’s Only Skin Deep)である。“美しさは皮膚の奥だけ”というタイトルには、そうしたシェリーの気持ちが込められているのだろう。しかし、アルバムカバーを見ると、ランナウェイズのセクシー路線を引き継いで更にヴァージョンアップしているかのような印象を受ける。これは、本人の意志ではなくレコード会社側の要求だったに違いない。

 

なぜそう思うかというと、中身の音楽のほうは拍子抜けしてしまうほどにおとなしい内容だからだ。本人がインタビューで“ハードロックだけでなく、愛のバラードとかポップでメロディアスな曲も歌ってみたかった”と述べているように、このアルバムではポップス調の曲が全体を占めており、ハードロック調の曲はわずか1,2曲しか入っていない。

 

ランナウェイズのように挑発的なロックを期待した人にとっては、肩透かしを食らったも同然だったのではないだろうか。ヒットを期待できそうなキャッチーな曲も乏しく、どの曲も及第点ギリギリかそれ以下に感じられる地味な曲が集まっている印象だ。それでも、このレコードの中古市場での人気は高い。売上を伸ばしたランナウェイズと比較すると、このアルバムは思ったほどのヒットには至らず、流通数が少ないのも理由の一つだろうが、もっとも大きな理由は、このセクシーなジャケットにあるのは間違いないだろう。

 

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