アカサカベースの廃盤アワー 第13話
加橋かつみ「パリ 1969」
人気絶頂だったGSグループのタイガースを脱退後、飯倉のイタリアンレストラン「キャンティ」に出入りしていた加橋かつみは、タイガース時代には果たせなかった本格的な音楽性を備えたソロアルバムの制作に取りかかる。この時、加橋を支えたのが、キャンティオーナーの川添浩史と息子の川添象郎らであった。(敬称略)
世界中に幅広い人脈を持つ川添浩史は、フランスでポップ・ミュージックのレーベル「バークレー・レコード」を経営する友人エディ・バークレーに、日本の才能あふれるミュージシャンにレコーディングの機会を与えるように便宜を図り、息子の象郎をプロデューサーに据えてパリレコーディングを敢行する。タイガース脱退からわずか翌月の1969年4月のことである。
このアルバムのために曲を提供したのは、キャンティの取り巻きである、安井かずみ、村井邦彦、山上路夫、かまやつひろし、当時、ザ・スパイダースのファッションや音楽のアドバイザー的存在でもあったレーサー・福沢幸雄の妹・福沢エミといった面々。加橋本人による作品も含めた12の楽曲は、フランスの作曲家・編曲家であるジャン・クロードプチによる編曲指揮で丁寧に編まれ、叙情的で美しいトータルコンセプト・アルバムに仕上がっている。
ソロとしてのファースト・アルバムということで、売り上げを意識するならばアイドル的人気を誇った加橋かつみの写真をジャケットに採用するのが定石と思うのだが、このアルバムではビートルズの「ホワイトアルバム」と同様、ただ白いだけのアルバムカバーを採用している。レコードの帯が無ければ、誰のレコードなのかまったく見当もつかない。
また、更にこだわりを強く感じさせるのが、付録の歌詞カードでなんと手書きで書かれた歌詞が細長いわら半紙にずらりと印刷されているところだ。まるで高級料亭でテーブルに出される献立表のような凝りようで、このアルバムにかける加橋と川添象郎の思い入れが伝わってくる仕様である。そんな2人の思い入れが反映されたこのアルバムは、まだマルチトラック・レコーディングが普及していない時代に先進の設備を持つスタジオでレコーディングされている。
後に、村井邦彦と立ち上げるアルファレコードで、荒井由実やYMOなど錚々たるアーティストたちの数々の名作を生み出す名プロデューサー川添象郎の原点がこのアルバムには刻まれている。加橋は、この後、やはりキャンティに出入りしていた、当時17歳だった荒井由実が作曲した「愛は突然に…」をシングルで発売し、同曲が含まれた傑作アルバム「1971 花」を発表する。デビューアルバムのコンセプトを引き継いだ、静謐で叙情的な素晴らしいアルバムに仕上がっている。
加橋かつみが残した「パリ 1969」や「1971 花」などの初期作品は、何度かCD化されるなど復刻を果たしているが、現在では廃盤となっており、なかなか入手しにくい状態が続いている。元GSの才能あふれるアーティストが残した名作が長らく埋もれているのはなんとも残念だ。ぜひ、もう一度これらのアルバムが注目され、ふたたび日の目を見るときが来るのを望んでやまない。
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