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裏シティポップ街道を行く 〜シティポップの隠れ名盤〜 その1

いしだあゆみ「アワー・コネクション」

いしだあゆみといえば、昭和歌謡の代表曲でもある「ブルー・ライト・ヨコハマ」を大ヒットさせた歌手として有名。デビュー以来、しばらくヒットにめぐまれない時期が続くが、1968年12月にリリースした「ブルー・ライト・ヨコハマ」が累計150万枚を超えるミリオンセラーとなり、一躍人気歌手となる。その後もヒットを飛ばし、紅白歌合戦に通算10回出場するなど活躍を続け、1973年の映画「日本沈没」では演技が高く評価され、女優としても確固たる地位を築いていく。

 

 

そんな彼女が、1977年に突如発売したのが、今回紹介する「アワー・コネクション」だ。

このアルバムでもっとも興味を引くのが、全面的にティン・パン・アレーがサポートしているところ。それまで、昭和歌謡のイメージが色濃かったいしだあゆみが、突然ニューロックのような伴奏を率いた先進的なアルバムを発表するとは、誰も予想しなかったに違いない。

 

タイトルに、いしだあゆみ&ティン・パン・アレー・ファミリーとクレジットされていたのは、そうした違和感をやわらげる意図もあったのだろう。このアルバム発売を最後に、コロンビアからアルファレコードへ移籍したことから推測されるのは、それまでの枠を超えた都会的な歌謡ジャンルを開拓していこうという制作陣の心意気だ。では、アルバムのクレジットを見てみよう。

 

Arranged By – 細野晴臣 (A1, A2, A4, B1, B5, B6)
Arranged By – 萩田光雄 (A2 to B6)

Bass, Acoustic Guitar – 細野晴臣
Drums – 林立夫

Electric Guitar – 鈴木茂

 

Guest, Chorus – 吉田美奈子

Guest, Chorus – 山下達郎
Guest, Guitar [Folk] – 吉川忠英
Guest, Horn – ジェイクF.コンセプション
Guest, Keyboards – 矢野顕子
Guest, Keyboards – 佐藤博
Guest, Keyboards – 羽田健太郎
Guest, Keyboards – 岡田徹
Guest, Percussion [Latin] – 浜口茂外也

 

当時はまだ無名だったとはいえ、後に日本のポップス、ロック界を牽引していく才気溢れるミュージシャンが数多く参加している。実際に曲を聴いてみると、1980年代以降のシティポップに見られるようなグルーブは感じられず、そこにあるのは、あくまで歌謡曲を新たな解釈で都会的にアレンジしてみようという姿勢だ。

 

1,2曲目を飾る「私自身」「ひとり旅」を聴くと、それまでの歌謡曲とはひと味違ったアーバン歌謡の萌芽を感じるし、3,4曲目の「六本木ララバイ」「ダンシング」では、六本木や青山を舞台とした、さしたる意味もない詞が軽やかなアレンジに乗って浮遊する。

 

7曲目の「真夜中のアマン」では、中東風のエキゾチックなイントロからはじまる、いしだの歌声や節回しに不思議とハマった意欲作。9曲目の「ウインターコンサート」は、これぞティン・パン・アレーともいうべき遊び心に満ちたアレンジが炸裂する。そして、印象的なギターリフではじまる10曲目の「そしてベルが鳴る」では、元々は歌謡曲らしく作られたであろう原曲を大きく崩した斬新なアプローチが光る。

そして、羽田を飛行機で立つ失恋した相手を見送る女性の心情を歌った12曲目の「バイ・バイ・ジェット」でアルバムは終わる。相手のフィアンセを一目見たいという一節は、ジメっとした別れ話を連想させるが、曲調にまったく暗さはなく、都会的に軽くアレンジされたオケをバックに淡々と整理された気分が歌われる。

 

シティポップ誕生前夜の1977年に発表された、多種多様なエッセンスがクロスオーバーするこのアルバムは、まさに隠れ名盤と呼ぶに相応しい異彩を放っている。

 

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