ムーディーレコードの誘惑 第4話
シビル・シェパード「MAD ABOUT THE BOY」
シビル・シェパードは、1976年の映画「タクシードライバー」に出演し、ロバート・デ・ニーロが劇中で一目惚れしてしまうベッツィー役で有名な女優。映画では知的でクールな女性を演じているが、その役柄のイメージそのままのジャケット写真で印象的なのが、同じ1976年に発売された「MAD ABOUT THE BOY」だ。
まるで映画の中からベッツィーが飛び出してきて、カフェでコーヒーを飲んでいるかのようなワンシーンで、彼女が見つめる先にはトラヴィス(デ・ニーロ演じるタクシードライバー)がいるのではと錯覚さえ覚えてしまう。そんなモノクロームのスナップに、控えめに配置された Cybill Shepherd mad about the boy のタイポグラフィーが美しい。
わたしは、このレコードを見たとき、あのタクシードライバーの女優がなぜレコードを?と思った記憶がある。しかも売られているのはジャズヴォーカルの棚である。ただ、パーソナルにスタン・ゲッツの名前を見つけてすこし納得した。スタン・ゲッツといえば、ボサノバの名盤「ゲッツ/ジルベルト」が有名で、そのアルバムでも女性歌手アストラッド・ジルベルトの「イパネマの娘」がフューチャーされているからだ。
レコードを買って帰って半信半疑で針を落としてみると、抑制されたしなやかなシビルの歌声が耳に入ってきて、ああ、良い買い物をしたなぁと胸を撫でおろしたのを覚えている。ムーディーレコードの第2話では、女優ティナ・ルイーズの名盤「イッツ・タイム・フォー・ティナ」を紹介したが、このシビルの「MAD ABOUT THE BOY」も、それに負けないくらいに素晴らしいアルバムだ。
アルバムタイトルとなっている「MAD ABOUT THE BOY」は、1932年に発表されたスタンダードナンバーで、映画スターへの報われない愛をテーマにした曲である。映画「タクシードライバー」は、トラヴィスのベッツィーへの報われない想いが彼の狂気を呼び起こしていくというストーリーだが、シビルのこのアルバムにこのタイトルを選んだというのは、なんとも逆説的であり興味深い。
映画の最後で、トラヴィスが運転するタクシーに乗ったベッツィーは、クルマを降りる際に何かを言いかける。一瞬の躊躇によってその言葉は封印されてしまうが、おそらく彼女はまた逢いたいというようなことを伝えたかったのではないか……。つまり、このアルバムはそのまま「タクシードライバー」のアフターストーリーにもなっているという解釈もできるのだ。
さて、音楽のほうに話を戻すと、アルバム構成はボサノバとジャズスタンダードが随所に収められた構成となっていて、シビルのクールビューティーな歌声に対して、ゲッツのテナーサックスもブロウしすぎない抑制された伴奏でそれに応えており見事な調和を見せている。
ゆっくりとしたコーヒータイムのBGMにも最適なので、仕事や家事の合間に一息つきながら聴いてみてはいかがだろううか。
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