極私的ショートショート “忽然と消えたCJ”
実際に起きた世にも不思議な逃亡劇
これは、実際に起きた出来事である。家でレコードを聴き終えたわたしは、カバージャケットにそれをしまおうとしたが、盤面の一部にカビの予兆が見えたので、いつものように水洗いをしてからキッチンの壁にそれを立て掛けた。この状態で40分ほど置いておけば、水分がとんで盤面も見違えるようにきれいになるはず。
そのレコードとは、Faith Evansのヴァイナルで1995年リリースの12″シングル。わたしは、このカバージャケットをスピーカー上のスタンドに立てかけると、自転車に乗って新宿まで出かけていった。新たなレコードを掘るためだ。
その日の収穫は16枚、金額は2,060円と上々の成果を得て意気揚々と帰宅したわたしは、その戦利品を整理しているときに、ある異変に気づいた。さっき洗ったレコードは、変わりなくキッチンに置かれたままなのだが、なぜかカバージャケットだけが見当たらないのだ。
ジャケットを立てかけていた左横には、パティオに出られる勝手口があるが、ドアにはカギをかけてあったはずだ。また、仮に留守中に誰かが侵入していたのだとしても、このカバージャケットだけを持ち去るというのは考えづらい。
わたしは、部屋の中を念入りに探してみた。レコード棚からソファーの下、絨毯の裏、部屋まわり全体まで……しかし、どうしてもこのジャケットだけが出てこないのである。まさに“忽然と姿を消した”という表現がピッタリ当てはまる、世にも不思議な逃亡劇だ。
解決の糸口は、タイトルに隠されていた!
このレコードのタイトルは “Soon As I Get Home” 、家に帰ったらすぐにという意味だ。述べ36時間にわたって行方不明だったこのレコードのタイトルをあらためて思い出したわたしは、咄嗟に玄関のほうへ移動してみた。すると……なんと、玄関に設置してあるスチールの棚にちょこんと置いてあるではないか!
スピーカー上のスタンドに立てかけたというのは、レコードを聴いていたときのことで、確かに出掛けにこの棚へ置いたような記憶もある。それにしても、“Soon As I Get Home” = 家に帰ったらすぐにとは、なんとも意味深なタイトルではないか。普段は使わない玄関の棚というのは意外な盲点で、ついこの間も携帯電話と財布を置き忘れる失態を犯したばかりだ。
ところで、このスチール製の棚、最近いただいたものなのだが、何に使用するかが決まっておらず、ずっと玄関に置きっぱなしになっていた。今回のこの一件で、中古レコード店の店頭よろしく、レコードのディスプレイ用途に使えることがわかった。ケガの功名とはこのことか。
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