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裏シティポップ街道を行く 〜シティポップの隠れ名盤〜 その12

日暮らし「記憶の果実」

裏シティポップ街道を行くの第12回で紹介するのは、1970年代に活動していたコーラスグループ、日暮らしの「記憶の果実」。ビクター傘下のInvitationレーベルから1979年に発売されたのが初出で、2015年にはCD、2016年に180gの重量盤でアナログがリイシューされている。オリジナル作品としては最後のアルバムということになるが、この内容が素晴らしい。

 

 

1979年というと、ハイ・ファイ・セットに続いてサーカスがヒットを飛ばしていた時代で、男女混声コーラスグループが流行っていた時期だ。演奏者のクレジットを見ても、村上秀一、林立夫、上原裕(ds)、小原礼(b)、大村憲司、高中正義、椎名和夫(g)、山本剛、難波弘之(p)等々、凄腕ミュージシャンが揃っていて聴く前から期待を抱かせる。プロデューサーと編曲は元モップスの星 勝が担っており、日暮らしのリーダーである武田清一がRCサクセションの前身バンド「The Remainders of The Clover」のメンバーだったことからも、なるほどと思わせる布陣である(星 勝はRCサクセション、井上陽水などのプロデュースや楽曲提供者として知られる)。

 

日暮らしとしてもっともヒットしたのは、シングル曲の「い・に・し・え」で、作詞作曲は前出の武田清一が担当。編曲は星 勝が担当しておりInvitation時代の日暮らしの楽曲はほとんどがこのコンビによって生み出されている。尚、この「い・に・し・え」は1977年発売の「ありふれた出来事」に収録されている。こちらも良いアルバムだが、「記憶の果実」よりもフォーク・歌謡曲の色合いが濃く感じられる。

 

さて、話を「記憶の果実」に戻すと、全編がシティポップといえるくらいに洗練された名曲が並んでおり、まるでベストアルバムではないかと思えてしまうほどに完成された作品に仕上がっている。まず1曲目の「サーカス少年の街」からして素晴らしくキャッチーで、ギターカッティングのように聴こえるキーボードと独特のグルーブ感の効いたドラム、“フー・ララ・フー”のコーラスパートが実に心地良い。

 

3曲目のシングルカットされた「うでまくら」は、「い・に・し・え」の流れを汲む歌謡曲風のバラードで、それに続く「風を光らせて」は都会的なホーンセクションに続いて武田清一のヴォーカルがフューチャーされたシティポップの名曲。イントロはハイ・ファイ・セットを彷彿とさせるし、レイドバックしたヴォーカルは、はっぴいえんどを思わせる。B1の「場面」の絶妙なグルーブ感と潔いエンディングも実に気持ち良く、これもアレンジの妙といえるだろう。しばらく夏らしい曲が続いたかと思うと、B4の「秋の扉」へと移っていく展開は、夏から秋へと向かう季節の寂しさをドラマチックに感じさせてくれるに十分な構成で、榊原尚美の澄みわたったヴォーカルが胸に染みわたる。

 

夏から秋へと移ろうセンチメンタルな時期にピッタリなこのアルバム。楽しかった夏の日々を思い出しながら、午後から夕暮れにかけての時間帯にじっくりと聴いてみてほしい。きっとあなたの心の隙間を埋めてくれる一服の清涼剤になるに違いない。

 

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