ムーディーレコードの誘惑 第7話
ちあきなおみ「あまぐも」
このジャケットをはじめて見たときは、てっきりビル・エバンス「ワルツ・フォー・デビー」のパロディレコードだと思ってしまった。しかし、よく見ると「naomi chiaki あまぐも」と書いてある。そして、その値段を見て仰天してしまった。
8の下に0が4つ……ん? 800円? いや、8,000円? い、いや……80,000円!?
そう、確かに帯付きで8万円で売られているのである。しかも、この値段はハッタリではなく順当な価格というのだからスゴイ。いやはや、中古レコードの世界というのは奥が深いものだ。
このアルバムが発売されたのは1978年で、ちあきなおみのコロムビア時代最後となる作品だ。A面を河島英五、B面を友川かずきの2人が楽曲提供しているのだが、もっと着目すべきは編曲をミッキー吉野、伴奏をゴダイゴが担当しているところだ。
1978年といえば、ゴダイゴの絶頂期の頃で、ドラマ「西遊記」のエンディング曲「ガンダーラ」と、オープニング曲「モンキー・マジック」が大ヒットする年である。知らずに聴いたら、まさかゴダイゴの演奏とは誰も気づかないのではと思うくらいに奇をてらわない伴奏に徹しているが、時折、ガラス細工のように繊細なタッチのピアノソロが入るあたりは、さすがはミッキー吉野と唸ってしまう演奏で、こういうのをプロの仕事と言うのだと思う。
ゴダイゴのポップでプログレッシブな音楽性を知ってる方なら、歌謡曲とロックがコラボした人気盤、いしだあゆみの「アワー・コネクション」のような斬新さを期待してしまうかもしれないが、例えばスティーブ・フォックスのベースは歌謡曲らしさをぎりぎりキープしていて好感が持てるし、トミー・スナイダーのドラムはたまに切れの良いフィルを聴かせるものの、やはり基本から逸脱しない演奏で素晴らしい。改めて、彼等の演奏の上手さに感心してしまった。
そして、トミーによるフルートが実に効果的で哀愁を感じさせるタイトル曲「あまぐも」と、次に続く「仕事仲間」へのつなぎ、ガラス細工のごとく精緻なピアノソロを聴くと、このあたりが演歌とプログレッシブロックが融合した名演奏たらしめているのだなと気づかされる。
4.曲目の「想影」では、やや実験的なイントロではじまり、どんな展開になるかと期待して聴くが、Aメロに入ると大きく踏み外すことないアレンジに戻っていくというニクい編曲が光る。5曲目「義弟」の効果的なピアノのリフレインと歌の重なりも然りだ。
ちあきなおみの歌については、ここであえて書く必要はないだろう。長らく沈黙を破ることなく引退生活を続けている彼女は、伝説の歌姫と言われるくらいに日本の歌謡界が生んだ至宝の一人。
演歌からシャンソン、ジャズ、そして女優までこなす類まれな才女である。1989年に舞台で演じたミュージカル『LADY DAY』では、ビリー・ホリディ役を演じて好評を博しているが、天才ジャズシンガーと謳われるレディデイを一人芝居で演じきるというのは、真の実力なくしては不可能であろう。
中古レコード市場では、テレサ・テンと同様にすべてのレコード価格が高騰しており、そのなかでも突出しているのがこの「あまぐも」だ。動画サイトでは全曲を試聴できるので、興味がある方はぜひ一度聴いてみてほしい。
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