アカサカベースが選ぶ、秘蔵の名盤 第16話
イーディ・ゴーメ「Eydie Gormé」
このアルバムには思い出がある。初めて聴いたのは、高田馬場の「さかえ通り商店街」にあった居酒屋で、その店はちょうど商店街の端っこにあった。雑誌図書館「六月社」へ行った帰り道に、友人のコピーライターと一緒に店の前を通りかかると老若男女が10人ほど楽しそうに飲んでいる。
「ここは、素通りしてはいけないな…」そう思った我々が店先で様子を伺っていると、客の数人が“どうぞ”と手招きするので釣られるように入っていった。店内を見回していると主人らしき旦那が一升瓶を抱えてやって来てそれを1本ずつ手渡してくれた。一升瓶には焼酎が180CCほど入っていて、それをラッパ飲みするのがここの流儀らしい。
いま思えば、そこは居酒屋などではなくて民家だったのかもしれない…。店内は、角打ちのできる酒屋風であった。客たちは一升瓶を持って楽しそうに回遊したり、膝を突き合わせて雑談に浸っている。「面白い店を見つけたな」と呟いてから乾杯して飲むこと数十分……真っ昼間のストレート焼酎というのは強力で、どんどん酔いが回ってくる。
空の瓶を持ったまま佇んでいると、主人がやってきて新しい一升瓶を手渡してくれる(まるでアルコール中毒者の集いのようだ(笑))。春の陽気に包まれた昼酒は実に良いもので、気の合う仲間とお花見をしてるときのような幸福感に満たされる。そんな既視感に浸りながら談笑していると主人が一枚のレコードをかけてくれた。
洒落たオーケストラの伴奏に続いて、実にチャーミングな歌声が響いてくる。一聴してジャズボーカルだろうことは間違いないのだが、たまにラテンの風味が加わるあたり、生真面目なメインストリームの歌手とは異なる立ち位置のようだ。伴奏はコンボではなくオーケストラを従えているので、一流スターでしか成し得ない豪華さだ。
気さくな主人に誰のレコードか聞いてみると、差し出してくれたのはイーディ・ゴーメのレコードだった。イーディ・ゴーメなら家にも何枚かアルバムはある。しかし、わたしの持っているレコードより遥かに生き生きとした歌声とサウンドで、聴けば聴くほど魅了されていくのが自分でも分かった。
その歌声に惚れ込んだわたしは、ジャケットを食い入るように見つめて頭に焼き付けた。それ以来、機会があればレコード店の女性ボーカル棚を漁ってきたのだが、不運にもめぐり合えずに長いこと幻と化していたのが今回紹介するABCパラマウント盤だ。
イーディの歌はもちろんだが、あらためて聴いてみると、オーケストラを指揮しているドン・コスタの卓越したセンスが光っている。このアルバム以降、イーディとコスタはパラマウントで9枚のアルバムを残し、UA(ユナイテッドアーティスツ)に移籍後も2枚発売するなど、1957から5年にわたって11枚もの作品を世に送り出している。この時期の二人は、切っても切れない信頼関係で結ばれていたのだろう。
ドン・コスタは、当時のイーディには無くてはならない存在であり、アルバムのプロデュースから編曲・指揮にいたるまでトータルで彼女を支えていた。歌手・コメディアンで夫でもあるスティーブ・ローレンスはイーディーとのデュエットをよく披露していたが、コスタはこの夫婦共演の制作にも深く関わっている。もはや、イーディ&コスタ・ファミリーといってもいいだろう。
それでは、このとっておきの一枚のミックスリストを作成したので、ぜひ一度聴いてみてほしい。1曲目の「I’ll Take Romance」から、あなたを1957年のサンセット・ストリップへと誘ってくれること請け合いだ。
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