オリジナル小説「秘密の八重歯」第一章 – 1
第一章
戦後まもない時期、東京に落ちた流れ星
太平洋戦争が終結した年の12月、東京武蔵野市のある場所に異様に光る火の玉が落ちてきたという。それは、焼夷弾が発するような音のない、ギラリと不気味に光るオレンジ色の物体で、その軌道をいち早くキャッチしていたのは、連合国軍最高司令官総司令部 (GHQ) であった。終戦間際に勃発したソビエト軍による樺太侵攻の煽りもあり、空からの攻撃に神経を尖らせていた司令部では、火の玉の軌道を直前にレーダーで察知していて、その飛翔体がミサイルではないことは予想していた。
火の玉が落ちた場所は、現在の国分寺市西恋ヶ窪の森林地帯。現場からほど近い立川飛行場からジープで駆けつけた米軍より先に、火の玉の現場を訪れたある人物がいた。恋ヶ窪の森林地帯から徒歩15分ほどの場所で歯科医を営んでいたY氏である。天体観測が好きで戦前から星空の探求をしていた彼は、前もってその時期に流星が落ちてくるのを予測しており、その時間帯に流れ星が見えそうな空の方角に向かって望遠鏡の照準を合わせていたのだ。
その火の玉が、流星群の一部から派生したものなのかは明らかではなかったが、東京上空ではハッキリとしたオレンジ色の飛翔体として多くの人々が目撃していたのだった。米軍の占領下とはいえ、空襲の悪夢から冷めきらない戦災者にとって、空から落ちてくる火の玉は恐怖以外の何物でもなかった。その不気味な火の玉は、音もなく武蔵野上空を横切った挙げ句、森林地帯を目掛けて斜め45°に落下したのだった。
火の玉の恐怖に怯え逃げ惑う人々をよそに、Y氏はその物体が落ちて行った現場を目指して走った。おおよそ8分くらい走っただろうか。鬱蒼とした森林地帯のある場所から、火の玉の衝撃から上がったらしい白い煙と異様な臭気がするのに気づいた。
煙が出ている場所に夢中で駆け寄っていくと、一握りほどの物体が不気味な光を発しながら土にめり込んでいる光景に突如出くわし、Y氏はその瞬間思わず大きな声で叫んだ。
「これだ、これに間違いない!」
しかし、その興奮に酔う暇もなく、それから数分後には英語で叫びながら近づいてくる米兵たちの足音が聞こえてきた。Y氏は、躊躇することなく土に埋まっている隕石を掘り起こすと、その異様な光と匂いを発する物体を抱えて無我夢中でその場を後にした。
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