オリジナル小説「秘密の八重歯」第二章 – 1
第二章
夢がかなったアメリカ留学と新たな出会い
Y氏が掘りだした隕石がGHQの管理下に置かれてから半年後の9月、キヨはアメリカ政府の支援を得て、アメリカのミシガン州へと留学を果たした。表向きはアメリカ政府による Government And Relief In Occupied Areas(占領地域救済策)という名目だったが、実際は中央情報部(後のCIA)による外国人スパイの養成が目的である。

かねてから日本を脱出して海外留学を夢見ていたキヨにとって、それは願ってもないことだった。裕福な家庭で生まれ育ったキヨだが、戦中の軍国主義に疑問を抱き、両親や兄姉から十分な愛情を注がれていないと感じていたこともあって、高等小学校に進学した頃から、将来は必ず海外で生活すると胸に誓って勉学に励んできたのだった。
また、日本が連合国の占領下となって以降、それまで“鬼畜米英”と謳われてきた進駐軍の振る舞いが、予想に反して人道的だったこと、GHQ高官をはじめとした将校たちの紳士的な態度も、より一層キヨのそんな気持ちを掻き立てたのだった。一方で、将校たちがパンパンと呼ばれる街娼たちと大っぴらに買春(売春)していることには強い嫌悪感を抱いており、自分にも同じような目を向けてくる将校には、凛とした態度でそれを跳ね除けることも二度、三度ではなかった。
キヨは留学前、ある財閥の大物がGHQのエリートを招いたパーティーに通訳としてその場に招かれたことがあった。その場には、立川基地の軍備施設の建設を担っていたリチャード少佐がいた。リチャードは、キヨの気品ある応対とチャーミングで気立ての良い笑顔を見てすぐに彼女を気に入り、キヨがパーティーで一人になった瞬間を逃さずに近づいていくとこう言った。
「やあ、なかなかおいしい料理ですね」
「そうですね」
「これは、スシですね?」
「はい、とても新鮮で脂がのったツナです」
「生のツナは、はじめて食べましたが、こんなに旨いとは・・」
「日本では、昔から生で食べるのが普通です。あなたが食べていたのはオイル漬けですか?」
「いいえ、もっぱらステーキです」
「ステーキなら、ソイソースがおすすめですよ」
「ソイソース?」
「ここにあるソースです」
キヨは、そう言ってテーブルの上の醤油を指差して言った。
「バターで焼いたツナに少しかけると、風味がぐっと引き立ちますよ」
リチャードは、醤油の小皿を鼻の位置に持っていき、その香りを嗅いでみた。
「うーん、これをツナのステーキにかけた料理を食べてみたいな。どこか、食べられるレストランを教えてもらえませんか」
キヨは、連合軍の将官およびGHQ高官用宿舎として接収されたホテルのレストランを教えた。財閥とGHQの通訳として何度か入ったことのある店で、GHQからもほど近い場所にある。
「その店なら、きっと出してくれるのではないかしら」
リチャードは、間髪をいれずにこう言った。
「OK 次の週末にでもレストランを予約しておきます。あなたも、ぜひ一緒に行きましょう」
キヨは、あからさまに断ることもできずに、内心では渋々だったがレストランへ行く約束に承諾したのだった。
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