オリジナル小説「秘密の八重歯」第四章 – 1
第四章
スカイライン2000GTに残された賭博師の影
ある日、センパイOに呼ばれたノエルとSは、Oを迎えに府中の東京競馬場近くの喫茶店「チェリー」へとクルマで出かけた。ノエルとSは、小金井市本町の団地駐車場に駐めてあるスカイライン2000GTをピックアップしてその店へと向かった。
喫茶店の前でクルマを停車させると、ノエルが店内を見に行った。Oはノエルを確認するなり会計を済ませて喫茶店を出た。手には、競馬新聞と雑誌やチラシのようなものを持っている。Oは、スカイラインの助手席のドアを開けるとそこに座った。ノエルが後部シートに座ってドアを閉めるのを確認すると、Sはクルマを走らせた。

「わりぃ、わりぃ・・助かったよ」
「競馬のほうはどうでしたか?」
Sがそう聞くと、Oはしかめっ面をしてこう言った。
「今日はさんざんだったよ。読みがすべて裏目に出ちまった・・・まあ、こんな日もあるさ」
Oはそう言うと、こっちへ曲がってほしいと告げて自分の指示するコースにクルマを導いた。競馬場帰りの渋滞が続くその通りだったが、府中市白糸台にあった多摩農協の前に来ると、Oは煙草にマッチで火を付けてからこう言った。
「ここに農協があるだろう?」
「はい」
「ここに停まっているクルマは、職員のものだ。ここを通る時にいつも見かけるから間違いない。そこで、今月の25日にこの農協に現金400万を持ってこいと脅迫する。職員のクルマで現金を指定の場所へ持ってくるように書いた手紙を農協へある方法で届けさせる。その脅迫電話はオレがかけるよ」
「オレたちは、何をすればいいんですか?」
「まず、1人は農協の前で様子を見張っていてほしい。路上駐車しているクルマから見張ればいい。その前に、府中市の農協の近辺に脅迫状を2枚ほど撒いてほしい。1枚は目立つように民家の壁に貼る。もう1枚は近所の病院のポストの中に入れるんだ。オレは、府中警察の前で警察無線を傍受しながら警察の様子をクルマから見張る」
「もう1人は何を?」
「うん、もう1人は別行動だ。25日を選んだのには意味がある。この日は給料日だ。東芝の社員へ払う給料を載せた現金輸送車が、9時くらいに国分寺の日本信託から出発するはずだ。そこで、この現送車を追尾して現金強奪のリハーサルを行ってほしい」
「リハーサル?」
「そうだ。現送車のルートを頭に叩き込み、行員の人数やその特徴などもすべて記憶するんだ。強奪する場所や時刻の見当を付けたらあとはイメージするだけでいい」
「しかし、同じ日に農協を脅迫することに意味はあるんですか?」
「大いにある。農協の脅迫はあくまでデモンストレーションだ。実際に起こすつもりはない。こうした脅迫があった際に、どこまで警察が動くかを確かめるのが目的だ。また、東芝のヤマが成功すれば、いずれはこの脅迫事件との関連性に警察は気づくだろう。そこで、捜査を混乱させるタネを撒いておくのがもう一つの目的だ」
さらにOは続けた。
「この脅迫を月に1回、25日の給料日に行うんだ。そして、警察の注意を府中市のほうに向けさせる。しかし、一向に現金を奪おうとする犯人は姿を見せない。手の混んだ愉快犯に見せかけるんだ」
「でも、肝心の東芝のほうはどうやって強奪するんですか?」
「そうだな、大まかに説明すると・・まず、強奪の実行犯役はSに頼みたい。白バイ警官に扮して現送車を停め、クルマに爆弾が仕掛けられていると言ってクルマを調べる。行員の目を盗んで発煙筒を着火させたら、それをダイナマイトに見せかけて、行員にクルマから避難するように命じるんだ。そのスキに、現送車に乗り込んでクルマごと強奪する」
Sは、目を輝かせながら話を聞いている。
「付近の空地には逃走用のクルマを用意しておく。そこに現送車を乗り入れたら、ジュラルミンケースを逃走車に載せ替えてアジトへ直行する。この役目はノエに頼みたい」
Oは話を続けた。
「ノエは、目の色や鼻立ちからして普通の日本人には見えないからな。白バイ警官役は、最低でも行員たちに顔を見られる。外国人の白バイ警官では、目立ちすぎるだろう?」
ノエルは黙ってうなずいた。
「それ以外の細かなことは、こんど詳しく話すよ。この計画にあたっては、最低でも3台のクルマと1台のバイクが必要だ。1台はジュラルミンを積んで逃走するクルマ、2台目は白バイ警官が待機するクルマ、3台目は白バイ警官が服を着替えて逃走するクルマだ。そして1台のバイクはニセの白バイ用に使う。犯行に使ったクルマはすべて乗り捨てる。当然、足がつかないように犯行に使うのはすべて盗難車だ」
その話を聞いていたSはこう言った。
「クルマとバイクの手配の方は、オレたちのほうで引き受けます」
「うん、よろしく頼む。犯行の具体的な話と3人の役割については、来週にでも家に来てもらえば細かく説明するよ」
3人が乗ったスカイラインは、多摩農協の前を通過してしばらく進んだあと、Oを国立の自宅へと送っていった。Oが降りると、ノエルが後部シートから助手席に移ってきた。
「あれ・・オッサン、これ置いてったな。見ろよ、ご丁寧に赤鉛筆でチェックまでされてるよ」
ノエルはそう言って、Oが忘れていった競馬新聞を見せた。そして、それらをまとめてダッシュボードのグローブボックスの中に入れた。
Sが運転するスカイラインは、ノエルを米軍基地の入口まで送ってから小金井の本町団地に駐めてシートカバーをかけられた。Sは、近くに駐めていたオートバイに乗り換えて、国分寺の自宅へと帰っていった。
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