2023年10月 阿佐谷ジャズストリート
都内ジャズストリートの聖地、阿佐谷
阿佐谷ジャズストリートは、1995年に始まったので実に今年で29年の歴史を誇る。阿佐谷の後を追うように全国各地でジャズストリートが行われるようになったが、都内で継続して行われているのは、今年で12回目の開催となった「すみだストリートジャズフェスティバル」とこの阿佐谷くらいのものではないだろうか。
今回は、ほぼ15年ぶりに阿佐谷ジャズストリートに、取材記者として参加させていただいた。阿佐谷ジャズストリートは、どのように進化してきたのだろうか。まず、筆者が参加していたころとの大きな違いは、かつてあったパスポート券の廃止がある。前売り4,000円、当日4,500円のパスポートを購入すると、基本的にすべてのライブが無料で見れるというシステムで、コアなジャズファンにとっては魅力的なシステムだった。
もっともジャズストリートらしい駅前広場で聴くジャズ
街角からジャズが聴こえてくる、ストリートならではの屋外会場は、阿佐谷駅南口噴水前がメインステージとなっており、これは当時と変わっていない。ちなみにこの会場は、通りすがりの人も気楽に参加できる無料のストリート会場で、子供から高齢者までが気軽にジャズと接せられるという意味では、もっともジャズストリートらしい場所といえるだろう。
世界的なジャズミュージシャンも出演するパブリック会場
阿佐谷ジャズストリートの顔といえるのが、阿佐谷神明宮の能楽殿で行われるジャズピアニスト、山下洋輔さんのステージだ。阿佐谷に実家がある山下さんにとっては青春時代を過ごした街。なかでもこの神明宮は通学路だったということもあり、ほぼ毎年出演していることを思えば運命的な場所と言っていいだろう。山下ファンにとっての聖地…それが阿佐谷神明宮だ。
今回は、出演時間が重なってしまう関係で、阿佐谷ジャズストリートには4年ぶりの出演となる、世界的ギタリスト増尾好秋さんのステージを観に阿佐谷聖ペテロ教会へと足を運んだ。増尾さんは、ソニー・ロリンズをはじめ、エルビン・ジョーンズやリー・コニッツといった錚々たる本場のジャズミュージシャンと共演してきたジャズギタリスト。
この日は、永武幹子さん(ピアノ)をはじめとする若手メンバー3人を率いてのカルテットで、往年のソロアルバムから気持ちの良いフュージョンナンバーを中心に聴かせてくれた。なかでも、ご自身の散歩コースで出会ったという、3、3、2のリズムを基調としたオリエンタルチックな新曲が印象的だった。
これがジャズか?というキャッチフレーズもすっかり定着
続いて向かったのは、阿佐谷地域区民センターで開かれた吾妻光良トリオ(+1)のステージ。吾妻さんは、阿佐谷在住の知る人ぞ知るジャンピングブルースのギタリストだ。自らが率いるスウィンギン・バッパーズ楽団をはじめ、コンボでのライブ演奏もこなす名うてのミュージシャン。
阿佐谷ジャズストリートには2002年頃から参加した吾妻さんだが、それまでは地元の自分に声がかからなかったことを皮肉ったコメントで会場を笑わせていた。今ではすっかりジャズストリートの顔となっている。元々、テレビ業界とミュージシャンという二刀流だったことも関係してか、コアなファンのみぞ知る存在だったが、阿佐谷でのパフォーマンスなどがきっかけとなり、人気アーティストEGO-WRAPPIN’にもリスペクトされるなど、本物志向の音楽ファンから注目を集めてきた。
今回は、息のあったベテラン3人を率いてのカルテットにて、ジャズのスタンダートナンバーをはじめ、ファッツ・ウォーラーのブルースなど、秋をテーマとした曲を中心に“打てば響く”ノリノリのスウィンギン・バップを聴かせてくれた。曲の途中で英語から和詞に代えるなど、原曲の意味や気分を観客に伝えるのが上手く、吾妻さんのライブを観てジャンピングジャイブやブルースにはまったという人も多いのではないだろうか。
夕方の買い物ついでに商店街で聴く優雅な調べ
阿佐谷ジャズストリートが開かれていた同日、商店街のパールセンターからすずらん通りに向かう三叉路から、優雅なチェロの響きが流れてきて足を止めた。すずらん通りに立ち並ぶ建物はすっかり建て替えられて、昭和の面影は消えてしまったが、ヨーロッパ調の低層建築が並ぶ風景はどこかパリの裏通りを思わせる雰囲気だ。
季節は食欲と芸術の秋。商店街でおいしい食事をした後や、今宵の食材を買いに来た客たちが熱心に耳を傾けていたのは長身のチェリストが弾くチェロの生演奏だった。誰にも親しみやすいマイウェイなどの名曲を奇をてらわずに奏でるその演奏を聴いていると、心が洗われるような気がした(その佇まいからして、もしかしたら牧師さん?)。
中央線のガード下に、ニューオリンズの風が吹く
2日目となる10月21日は土曜日ということもあり、どの会場も前日より多くの客で賑わっていた。ストリート会場の中央線高架下から、ニューオリンズ風ブラスバンドの音楽が聴こえたので行ってみると、演奏していたのはHIBI★Chazz-Kというバンド。普段は「音楽の架け橋を架ける工事作業員」と称し、ヘルメットと作業着姿で演奏しているのだそうだ。
モダンジャズがもつストイックなイメージを払拭し、ニューオリンズのジャズがそうだったように、明るく爽快なジャズ・スタンダードを演奏し続ける彼等を、食い入るように見つめる小学生や、楽しそうに体を揺らしていた幼児の姿が印象的だった。
阿佐谷中学校の体育館で鳴り響いたラテン音楽
続いて訪れたのは、杉並区役所の手前にある阿佐谷中学校。会場に入ると、300席ある座席は満席に近い状態で、最後列に座って間もなくすべての席が埋まる盛況ぶり。出演者は、仁科 愛&ラテン・カルナヴァル with 今陽子。前半は、ラテン風にアレンジされたポップスなどのインストゥルメンタルで構成され、中盤からゲストの今 陽子さんが登場すると、場内のボルテージは一気に上がっていく。
ピンキーとキラーズで「恋の季節」が大ヒットしたときは、まだ16歳という若さだった今さんだが、壮年期を超える世代とは思えない若々しさで、パワフルな歌を披露してくれた。デビュー当時から驚異的な歌唱力と愛くるしいベビーフェイスが持ち味だったとはいえ、やはり生歌を目の前で聴くとその技巧と迫力に圧倒される思いだった。
約40分のステージでとくに印象的だったのは、ライザ・ミネリの「キャバレー」と、アル・ジャロウの歌唱で知られるチック・コリアの「スペイン」。前曲では、艶っぽい歌声と身のこなし。後曲では、まるで器楽のようなスキャットを挟んだ歌唱で観客の熱い拍手を浴びていた。その後は、ラテンアレンジの「恋の季節」を軽快なステップを交えて披露し、昭和世代の心を鷲掴みにするというツボを抑えた構成であっという間のステージだった。
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