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オリジナル小説「秘密の八重歯」第二章 – 2

限られた時間のなかでの異なる慕情

キヨは、指定された時刻にホテルの玄関前で待っていた。アメリカ人建築家のF.L.ライトが設計したその建物は、西洋と日本のデザインをミックスさせた和洋折衷の外観デザインで知られ、ライト自身がデザインした照明器具やステンドグラスといったインテリアに至るまで、細部まで贅のかぎりを尽くした名建築として知られるホテルである。

 

旧帝国ホテル ライト館(1923年竣工) ※絵はがきより

 

1945年の9月にGHQに接収されてからは、キヨといえども内部に一人で入ることは許されず、約束相手であるリチャード少佐が現れるまでは、玄関前で待っていなくてはならなかった。しばらくしてリチャードがやって来ると、玄関口にいるMP二人は真っ直ぐ前を向いたまま敬礼した。

 

リチャードは、キヨに向かって微笑みながら挨拶すると、宿舎のなかへと彼女を案内した。宿舎内のレストランへ入り、リチャードが予約していたテーブル席に案内されると、キヨは奥の席を勧められてそこに座った。戦中戦後の日本の社会では久しく忘れられていたテーブルマナーである。リチャードは、かぶっていた帽子をとると、リラックスした表情でこう言った。

 

「今日はまた、いちだんとお美しい。まるで目の前に花が咲いているようです」

「いいえ、そんなお恥ずかしい」

 

リチャードとキヨのように、優雅にランチを食べようという客は他にはいなかった。夜は、GHQの将校たちと財閥、それに政治家への窓口となるフィクサーらの接待の場だったが、ポケットマネーでランチを食べるには、たとえ将校といえども気軽に入れるような店ではなかったのである。

 

西洋料理レストラン ※写真はイメージです

 

キヨは、給仕が運んでくれたメニューにツナステーキがないのを確認すると、給仕に日本語でこう伝えた。

 

「少佐はマグロのステーキが好物だそうです。できれば、それを召し上がりたいと言ってます」

「かしこまりました。味付けは、どうなさいますか?」

 

キヨは、リチャードに確認したうえで給仕に言った。

「お醤油とバターがお好みだそうです」

「かしこまりました」

 

キヨとリチャードは、給仕が運んできたシャンパンで乾杯すると、前菜のサラダをつまみながらしばし語り合った。

 

「そういえば、先日あなたは9月からアメリカへ留学されると言ってましたが、どの辺りですか?」

「ミシガン州のアナーバーというところです」

 

「それは素晴らしい! ということはミシガン大学ですか?」

「はい、はじめての海外留学なので、とても楽しみです」

 

「わたしの実家は、アナーバーから200kmほどのクリーブランドにあるんですよ」

「けっこう近いんですね。アナーバーには、行かれたことがありますか?」

 

「はい、何度も行ってます。緑が豊富で公園もたくさんある良い町ですよ。19世紀からそのまま残されている街並みや建物もある歴史的な町です」

「気候はどうですか?」

 

「温暖な気候で、グレートレイクス(五大湖)の影響で適度に湿気もあって、日本と同じように四季が楽しめます」

「それは、素敵ですね」

 

キヨとリチャードは、このはじめてのデートをきっかけに次第に親密になり、何度かこうして食事を共にする仲になった。キヨにとっては、アメリカでの生活に向けた良きアドバイザーであり、リチャードにとっては運命的な出会いを感じるほど魅力的な女性だった。彼女の留学までの限られた時間のなかで、リチャードの気持ちはますます募っていったが、一方のキヨの心の中には、相変わらずY氏への思いが消えないのだった。

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