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オリジナル小説「秘密の八重歯」第四章 – 2

突然起こった列車爆発事件

ノエルと少年S、センパイOがクルマから多摩農協を視察したのと同じ1968年6月16日、世間を騒がせる事件が起きていた。横須賀線電車爆破事件である。横須賀線の上り列車、横須賀発東京行きが大船駅手前に差しかかったとき、前から6両目の網棚に置かれていた荷物が突然爆発したのだ。この爆発で32歳の男性1人が死亡し、14名の重軽傷者を出す惨事となった。

 

毎日新聞 1968年6月17日 朝刊より

 

爆発物に使用された火薬は散弾銃の発射薬として市販されていた無煙火薬。起爆装置の乾電池ホルダーは受験勉強用に販売されていたテープレコーダーのものが利用されていた。そして爆弾が包まれていた新聞紙が毎日新聞東京多摩版であり、それが八王子市・立川市・日野市方面に配られた新聞であることを突き止めた警察では、犯行は三多摩地区の全学連によるものと睨んで捜査を行っていく。

 

しかし、この捜査で大きな壁となったのが全学連などのアジトがある大学構内だった。当時の大学構内では学生運動が盛んに行われており、警察官や刑事が構内に入ろうものなら、たちまち吊し上げを食らってもおかしくない状況にあり、捜査員たちは悔しい思いをして二の足を踏んでいたのだった。

 

やがて、遺留品捜査から日野市に在住する山形県出身の25歳の大工の男が被疑者として浮かび上がった。猟銃免許によって散弾銃を所持していたことが大きな要因である。任意出頭を求めて証拠を突きつけると、本人が自供したために事件は約5カ月後の11月に無事解決する。犯人の動機は恋人の女性に振られたことへの腹いせだったが、報道をはじめとして世間が最も恐れたのが過激派学生による無差別テロだった。

 

多摩農協の脅迫を進める予定の3人にとって、爆弾を使ったこの事件はちょうど良いケーススタディとなった。警察のマークが厳しくなる反面、ダイナマイトへの恐怖心が広がれば、脅迫の真実味は自然と増すだろう。新聞やテレビのニュースによって事件が大々的に報道されるなか、ノエルと少年SはセンパイOに呼ばれて、彼の自宅へと足を向けた。目的地に着いた2人は居間のテーブルへと通されてソファに座るなり、Oは2人にこう話しかけてきた。

 

「それにしても横須賀線の事件、すごいことになってるな」

「そうですね、あれは一体だれの仕業すかね?」

 

「まだ分からんが、カネがからんだ事件ではないから、政治犯の可能性が高そうだ」

「ということは、過激派?」

 

「うん、もしくは横須賀線を日曜日に利用する特定の相手を狙った犯行かもしれない。そういえばオマエら、草加次郎事件を知ってるか?」

「いいや・・知りません」

 

「1962年の11月から10カ月に渡って起こった爆破、脅迫、狙撃などの連続事件で、犯人は草加次郎を名乗って犯行を行ったんだ。対象は、初めに島倉千代子の事務所をターゲットに爆発事件、その後は吉永小百合をターゲットに100万の現金を要求する脅迫も起こした」

「ああ、その事件のことなら知ってます。ニュースで大きく取り上げられていたので」

 

少年Sがそう言うと、Oは頷いて話を続けた。

「この犯人が最後に踏んだのが1963年9月に起こった地下鉄銀座線爆破事件で、今回の事件はこの犯行とよく似ている。警察でも、真っ先にこの犯人と関連付けた捜査を行っているはずだ」

「なるほど・・それにしてもOさん、未だに警察と繋がりがあるんですか?」

 

ノエルのその質問に、鋭い目線で彼を睨みつけたOはこう言った。

「組織との繋がりはないよ。ただ、現役の刑事の友達は数人いる」

 

Oは、たまに見せる遠くを見つめる目をして、話を続けた。

「“草加”の事件は、都内の山の手から下町までの広範囲で起こっている。当時、オレは新任の刑事だった。警視庁の丸の内警察署の所轄だよ。“草加”は、ニュー東宝や日比谷映画でも爆発事件を起こしたもんだから、オレも事件の捜査には直接あたったのさ。当時は本庁でもこの事件にはかなり力を入れて捜査をしていた」

 

ノエルと少年Sは、真剣に話を聞いていた。

「でも、犯人が要求してきた脅迫金の受け渡し現場には、一度も犯人は現れていない。オレは、“草加”はマスコミを騒がせるのが目的の、典型的な愉快犯だと睨んでいる。捜査が詰めきれないのは、憶測が憶測を呼んで情報がどんどん枝分かれしていくから、犯人像が絞りきれなかったことが一番大きな原因だよ。まるで映画を観ているような犯罪でね、映画の爆発シーンなんかを手掛けている芸能の関係者なんかも調べたんだが、詰めきれなかった」

 

「犯人はまだ捕まってないんですか?」

「ああ、こういう愉快犯というのは一番タチが悪くてね。目的がカネや恨みじゃないから中々足がつかない。警察では、脅迫状の筆跡鑑定をして指紋も把握していたが、犯人は特定できていない。おそらく、お宮になるだろうと刑事の誰もが思っているときに、今回の横須賀線の事件が起きた。犯人が、“草加”と同じかどうかは分からんが、もし違うとしてもその影響を受けているのは間違いないとオレは思うな」

 

 

「じゃあ、多摩農協の脅迫も同じ手口でやるんですか?」

「実は、この間は話さなかったが、農協への脅迫はすでに2カ月前からオレが単独で始めている。4月25日、5月25日、6月14日と計3回にわたって脅迫状を送って脅迫電話をかけたのさ」

 

ノエルとSは、驚いて顔を見合わせた。

「4月と5月は東芝の給料日だ。6月14日は夏のボーナス支給日だよ。4月は多摩農協に150万円を持ってくるようにと農協に直接連絡した。5月は府中市役所を通して農協に300万。6月は“綿新”という布団屋を通して300万を要求した」

 

「カネは奪ったんですか?」

「いいや、前回も話したがこの脅迫はすべてデモンストレーションだ。本当のヤマを踏むまでにいろいろと布石を打つことで、後の捜査を混乱させるのが目的だ。しかし、当面のこと警察は横須賀線とこの多摩農協も同じ犯人の可能性があると見て捜査を進めてくるはずだ。当然、農協への警戒も厳しくなるだろう。だから、この脅迫はある程度まで行ったら一旦は止めるつもりだ。あまり深入りしすぎると、どこかに足が残る可能性があるからな」

 

「この間、Oさんが話していた無線傍受については、どうやってやるんですか?」

「それに関しては、オレのほうですでに手配済みだ。オレのクルマには、警察無線を傍受できる通信機をすでに組み込んである。府中や小金井警察の周波数帯もいつでも傍受できるようになってるよ」

 

センパイOは、こう話すとテーブルに置いてある木箱から煙草を1本取り出して火を付けると、煙を深く吸い込んでから白い煙を吐き出した。そして、居間の窓から見える中庭に駐めてある愛車のスカイランGT-Bを満足そうに眺めた。

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