井上堯之バンド「前略おふくろ様」

2020年12月7日、コメディアン・俳優の小松政夫さんが亡くなった。享年78歳の早すぎる訃報である。昨年の2019年12月12日には俳優の梅宮辰夫さんも享年81歳で亡くなられ、1周忌を迎えたばかりだ。お二方共に日本テレビ系ドラマ「前略おふくろ様」の主要出演者である。

主演の萩原健一さん（2019年3月26日、享年68）をはじめ、前略〜の出演者の方々では、志賀勝さん（2020年4月3日、享年78）、八千草 薫さん（2019年10月24日、享年88）、生井健夫さん（2019年8月29日、享年89）がこの2年の間に亡くなられた。謹んで、ご冥福をお祈りします。

この他にも、坂口良子さん（2013年3月27日、享年57）、北林谷栄さん（2010年4月27日、享年98）、室田日出男さん（2002年6月15日、享年64）、川谷拓三さん（1995年12月22日、享年54）、加藤嘉さん（1988年3月1日、享年75）、大口広司さん（2009年1月25日、享年58）、桜井センリさん（2012年11月10日、享年86）、小鹿番さん（2004年4月29日、享年71）、大滝秀治さん（2012年10月2日、享年87）、岡島艶子さん（1989年2月4日、享年80）、下元勉さん（2000年11月29日、享年83）、岸田今日子さん（2006年12月17日、享年76）、今井和子さん（2012年10月14日、享年81）、藤田淑子さん（2018年12月28日、享年68）、三浦 洋一さん（2000年5月14日、享年46）、田中 絹代さん（1977年3月21日、享年67）と、前略〜のレギュラー出演者の方々には、夭逝・往生された俳優・女優さんが数多い。

なかでも特別出演の田中 絹代さんは、ショーケン演じる三郎の母・益代役を演じており、第2シリーズ最終回前夜で益代の告別式シーンが描かれるが、ご本人も最終回放送日の11日前に67歳の若さで亡くなられている。

倉本聰（原案）による不朽の名作ドラマのサントラは名盤中の名盤！

「前略おふくろ様」は第1シリーズが1975年10月17日から1976年4月9日まで、第2シリーズは1976年10月15日から1977年4月1日まで放送された。ショーケン主演のテレビドラマ「傷だらけの天使」（1974年10月5日から1975年3月29日まで放送）のあと、同じ日本テレビが制作した、東京の下町深川の料亭を舞台にしたドラマである。

「傷だらけの天使」「前略おふくろ様」、そしてその布石となった「太陽にほえろ」（第1シリーズにショーケンが出演）のサントラを手がけたのが井上堯之バンドだ。作曲者である故・井上堯之と大野克夫氏は、共にザ・スパイダースの元メンバーであり、ショーケンはザ・テンプターズのヴォーカリスト。ちなみに、前略〜にヒロシ役で出演していた故・大口広司も元テンプターズのドラマーだった。

哀愁あふれるメロディーと、スワンプの香り漂う絶妙なアレンジ

前作の「傷だらけの天使」では、ブギウギやカントリーをベースとした軽妙な音楽を作り上げ、ドラマと共に絶大な支持を受けていた井上堯之バンドだが、今作では一転して人情味と哀愁が漂う和音を基調としながらも、アレンジにはスワンプ・ロック（1960〜1970年代前半にアメリカで流行った土臭い南部の香りが漂う曲調の音楽。オールマン・ブラザーズ、デレク＆ドミノス、ザ・バンド、ジョージ・ハリスンなどのサウンドを指す）の影響を強く感じさせる洗練された音世界を構築している。

• この動画は、“元祖Youtuber”のトーマ・キャンベルが今から約10年前に投稿した、前略おふくろ様のカバー映像。ギター、ベース、ドラム、ストリングス、管楽器などのすべてをガレージバンドを使って多重録音している。

PYG結成後、ジュリーのバックバンドをはじめ数々のサントラを手がける

リーダーの井上堯之さんは、2018年5月2日に享年77歳で亡くなられた。1960年代はザ・スパイダースのリードギター奏者として活躍し、解散後はPYG（沢田研二と萩原健一のツインヴォーカルを擁するロックバンド）を経たのち、井上堯之バンドを率いてジュリーのバックバンドや数々のドラマや映画のサントラをメンバーの大野克夫さんと共作。1986年の映画『火宅の人』では日本アカデミー賞最優秀音楽賞、1987年には作曲した「愚か者」（近藤真彦歌）が「日本レコード大賞」を受賞した。

独学で習得したギターについては、教則本を出すなどギター講師としても活躍し、多くの後継者を生んでいる。日本のロック業界に大きな貢献をした偉大なギタリスト、作曲家である。