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アカサカベースが選ぶ、秘蔵の名盤 第8話

カルメン・マキ&OZ「閉ざされた町」

 

アカサカベースが選ぶ、秘蔵の名盤 第8話は、カルメン・マキ&OZの1976年のアルバム「閉ざされた町」。ロック歌手へと転向したカルメン・マキがロックバンドを結成したのは1970年。ジャニス・ジョプリンを聴いてショックを受けた彼女は、近田春夫、立川直樹らと「カルメン・マキ&タイムマシーン」を結成するがすぐに解散。その後、竹田和夫のブルース・クリエイションと組んで、1971年に『カルメン・マキ&ブルース・クリエイション』を発表。それまでのフォークシンガーから、女性ロッカーへと彼女は生まれ変わった。

 

それまでは陰影のあるシンガーというイメージが色濃かった彼女に何があったのか? カルメン・マキのデビューまでの歩みは激動という言葉がぴったりと当てはまる。1968年、友人に誘われて観に行った寺山修司が率いる天井桟敷の舞台に感銘を受けた彼女は、その場で劇団への加入を決意する。同年には『書を捨てよ街へ出よう』の舞台に出演し、これがきっかけで翌年の1969年には「時には母のない子のように」(作詞:寺山修司、作曲:田中未知)で歌手デビューを果たす。楽曲の良さにも恵まれたうえ、17歳とは思えない妖艶な雰囲気と歌唱力でいきなり大ヒットを記録する。

 

 

この曲のヒットでNHK紅白歌合戦に出場するほどの人気歌手となった彼女は、当時のレコード会社CBSソニーの社長からご褒美としてプレゼントされたジャニス・ジョプリンのレコードに衝撃を受けてロックに開眼する。これがきっかけとなり、デビューの翌年にはロック歌手への転向を表明。藤圭子や日吉ミミといった哀歌路線が受けていた時代の大型新人が、わずか1年半でドロップアウトすることになるとは誰も予想しなかっただろう。言いかえれば、ロックとの出会いはそれだけ彼女にとって大きな衝撃だったということか。

 

レコード会社移籍後のセカンドアルバム

1972年に結成されたカルメン・マキ&OZだが、芸能界の掟を破ったともいえる彼女への風当たりは強かったのだろう、レコードデビューまでには2年の月日を要した。シングルを1枚はさんで、1975年1月にファーストアルバム『カルメン・マキ&OZ』をキティ・レコードからリリースすると、10万枚以上を売る大ヒットを記録する快挙を成し遂げる。

 

 

そしてその1年後に発売されたのが、今回紹介する「閉ざされた町」だ。前置きが長くなったが、このアルバムはトータルなコンセプトで作られており、単にシンガーであるカルメン・マキをフューチャーしたアルバムではない。キーボードを入れてスケールアップしたサウンドはプログレッシブ・ロックの要素も加味された重厚さを感じさせるものだ。前年の1975年5月には、ジェフ・ベック・グループ、グランド・ファンク・レイルロードの来日公演のオープニング・アクトを務めるなど、本場のミュージシャンとの交流を通じて、バンドとして大きく磨かれていったに違いない。

 

 

1976年にアメリカ合衆国のロサンゼルスで4カ月かけてレコーディングされていることからも、レコード会社からの期待が大きかったのを伺わせる。スケールの大きさに加えて、トータルアルバムとしてのまとまり、ジャパニーズフォークの流れを汲む歌詞・メロディが融合したハードロック的アプローチ、そして静寂から激動へと変幻自在に展開していく組曲のような構成。どこをとっても付け入るスキのない完成度を保った作品に仕上がっている。

 

 

舞台女優出身の彼女のことを思えば、ピーター・ガブリエル在籍時のジェネシスのステージや、後にロックオペラへと昇華したザ・フーの「トミー」、ピンク・フロイドの「ザ・ウォール」などのような大掛かりなステージ・パフォーマンスを大会場で観てみたかったと思うのは、きっと私だけではないだろう。

 

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