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オリジナル小説「秘密の八重歯」第一章 – 9

スパイとして初めて味わった複雑な思い

恋ヶ窪の森林で起こったことは、Y氏にとってもキヨにとっても、その後の生活に少なくない影響を与えていた。いま、自分たちが生きている世界は、GHQの占領下にあるという紛れもない事実。とくにY氏にとってあの日の出来事は、“目に見えない巨大な組織が闇に潜んでいる”という不気味さを感じさせるものだった。

 

一方のキヨにとっては、自分はスパイなのだという思いを強く自覚せざるを得ない出来事だった。米軍の兵士をうまく騙せたのは良かったが、あの一件によってY氏が“火の玉事件”について心を閉ざしてしまうのではないかが気がかりだった。いや、本当は“火の玉”ではなく自分に対してそうなることのほうを恐れていたのだが・・・。当日に起こったことは、事細かに英文のレポートにしてGHQの高官宛てに諜報員を通じて送った。

 

「寒い国から帰ったスパイ」(1965年)より

 

レポートを読んだ高官は、立川の米軍キャンプに向けて「恋ヶ窪周辺で何か変わったことがあったなら、どんなに細かなことでも良いから報告するように」という伝聞を送った。数日後、戻ってきたレポートには「大きな異常はなし」と記されていた。高官は、そのレポートの結果に一方では憤慨し、もう一方ではホッとするという複雑な思いにかられた。スパイなら誰もが感じるであろう心の機微である。

 

仮に、立川の米軍キャンプのほうでキヨやY 氏を追跡調査している動きがあるのなら、キヨをそのまま潜伏させておくのは危険である。当時の中央情報部(CIAの前身)は秘密組織であり、GHQの通訳をしているキヨの素性が明るみになると、高官としての立場も危うくなるからだ。

 

高官は大きなため息をつくと、キヨ宛ての手紙に「引き続き、Y氏をマークするように」との司令を書いた。そして、気分転換のためにGHQ本部から外へ出ると、それを郵便局のポストに投函しにいった。キヨ宛ての手紙には「Please Continue to Water the Tulip(チューリップへの水やりを続けてください)」と書かれていた。それは、その司令を伝える暗号文だった。

 

恋ヶ窪の一件は、Y氏とキヨにとってちょっとした出来事だったが、それでも戦中の日本に比べれば、武蔵野で暮らす日々は平穏であり、戦後初となる春の兆しは希望に満ちあふれたものだった。それは、ラジオから聴こえてくる流行歌や、町を歩く人々の表情からもあきらかだった。

 

終戦後に公開された、上原謙主演の映画「そよかぜ」。 挿入歌である「リンゴの唄」が大ヒットした。

 

キヨとY氏がふたたび町で会ったのは、キヨの2回目の歯の治療が終わった週末の日曜日だった。二人は、その日の午後に“偶然会った喫茶店”で待ち合わせることにした。キヨにとって、Y氏と再会するまでの数日間は、春が運んでくる“そよかぜ”のように心ときめく日々だった。

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