オリジナル小説「秘密の八重歯」第一章 – 14
一通の手紙が、青年の心に火を灯す
キヨからの手紙は、数日後にY氏の元へと届いた。手紙を読んだY氏は、突然のキヨの留学の知らせに少々落胆したが、喫茶店で自分が撮ったキヨの写真を見ると、心の奥の方で蝋燭の火が灯ったような胸の高まりを感じたのだった。それは、尋常小学校4年のときに、地元の神社で盆踊りをする同級生を見て初めて抱いた思いとよく似ていた。
それまでは、一人の女性として特別には意識していなかったキヨの存在が、心のなかで一気に膨らんでいったのである。母がつくってくれたイチゴ飲料を初めて飲んだとき、甘い搾りたての果汁が口内を満たして、喉から胸の奥へと沈んでいくときに沁み渡っていく感覚。“自分は生きているのだ”という素直な歓びにも通じる思いである。
そうした甘酸っぱい歓びを呼び起こしてくれた一枚の写真と、そこに写っている女性が遠い国へと旅立ってしまうという唐突な知らせは、いつもは冷静な青年の心を大きく揺さぶったのだった。
Y氏は、机から「金鵄」を取り出すと、その1本を口に加えて火を付けた。たばこの煙が部屋を満たすと、窓から差してくる陽に照らされた紫煙が、まるで自分の心象風景を映しているかのように複雑に揺らいでいる。Y氏はしばらくの間、その光と煙が織りなす“幻影”をぼんやりと見つめていた。
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