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オリジナル小説「秘密の八重歯」第二章 – 10

ひとときの家族団欒、そしてふたたび別居生活へ

CIAの語学教育責任者から呼ばれて、新たなミッションを宣告されてから数日後、リチャードからペンタゴンへの転勤が決まったという知らせがキヨの元へ届いた。彼からすれば、これでやっと親子3人そろっての生活ができるという喜びに満ちた報告である。

まさか、キヨが日本に帰国しなければならなくなるとは思いもよらないだろう。リチャードが帰ってきて、その話をしたら何と言うだろうか・・キヨは、すこしそれが気がかりだった。

 

マーキュリー8 1949年製 Photo by car-from-uk

 

その週末、リチャードは上機嫌でアーリントンへ帰ってきた。リチャードの愛車、1949年製マーキュリー8のエンジン音が聞こえると、キヨはノエルを抱いて玄関から庭に出て、軍服姿のリチャードを出迎えた。

 

「お帰りなさい、リチャード」

「ただいま!キヨ、そして息子よ」

 

リチャードは、キヨとノエルにキスをしたあとで、ノエルを空に向かってフライハイ(高い高い)させた。ノエルもうれしそうに笑っている。

 

「さあ、お家に入って! 食事ができてるから」

「ありがとう、それは楽しみだ」

 

この日、3人は家族団欒の時間を過ごした。キヨはあまり料理は得意ではなかったが、この日はリチャードが好きなツナステーキと、店で焼かれたピザを用意していたのだ。

 

Photo by PabloMerchánMontes

 

リチャードは、ツナステーキを見るなり驚いた顔でこう言った。

「これは、東京のインペリアルホテルで食べたのと同じじゃないか!」

「レシピを調べて作ってみたの」

 

「なんだか懐かしいなあ、君と出会うきっかけもこのステーキだったからね」

「そうね、ソイソースの味付けの話をしたわね」

 

リチャードは、うれしそうにツナステーキを切ると、それを口にはこんだ。

「うん、この味だ! おいしいよキヨ。これで、君も我が家のシェフに昇格だ」

そう言って、リチャードとキヨは高らかに笑った。こうして3人で楽しい食卓を囲むのも、あとすこしの時間しか残されてないのが信じられない光景だった。

 

その晩、キヨはリチャードにベッドルームで、東京へ帰国しなければならなくなる事情を伝えた。

 

キヨには、7才歳上の兄と3歳上の姉がいた。兄は1945年に小笠原諸島の硫黄島で起きた日本軍と米軍との間で行われた戦いに将校として出兵し、3月26日に行われた最後の総攻撃を敢行した際に玉砕した300名の兵士のうちの1人だった。

 

キヨは、戦後に進駐してきたリチャードには、この話は一切しなかった。この戦いで、米軍は戦死戦傷者28,686名という大きな損害を受けており、太平洋戦争後期の上陸戦では米軍攻略部隊の損害数が日本軍を上回る激しい戦闘だったことはキヨも知っていた。戦死したとはいえ、この壮絶な戦いに自分の兄が参戦していたことは、リチャードには話すべきではないと胸に誓っていたのだった。

 

 

キヨは、結核を患った兄が危篤状態にあり、東京へしばらくのあいだ帰国させてほしいとリチャードに懇願した。リチャードは、天を仰いでからこう言った。

「ああ、神さま・・せっかく、君とノエルと一緒に暮らせることになったのに」

キヨは、申し訳無さそうに答えた。

「ごめんなさい、こんなことになって」

 

「いや、君のせいではない。これも、僕たち家族の宿命なんだろう・・。それで、いつここを発つ予定なんだ?」

「来月の初めごろには、出発するつもり」

 

「でも、ノエルはどうするんだ?」

「一緒に連れて行くわ。しばらく実家で預かってくれるそうよ」

 

「しかし、何十日もかかる船旅には連れて行けないだろう」

「それが・・会社に相談したところ、国務省のほうからも横浜でわたしに頼みたい仕事があるというの。それを引き受けるなら、旅客機の旅券を用意するって」

 

「旅客機・・ロッキードのコンステレーションのことか。その旅客機ならよく知っている。ついこの間、実機を見学してきたばかりだよ」

 

その話は、リチャードをすこし安心させたようだった。キヨのような、敗戦国側の日本人が簡単に乗れるような旅客機ではない。政府要人や企業のトップといった選ばれた人物しか乗ることの出来ない、誰にとっても羨望のエアラインだったからだ。

 

こうして、リチャードの承諾をなんとか得たキヨは、ノエルと共に日本へと5年ぶりの帰国を果たすことになった。折しも、日米の間でサンフランシスコ平和条約が結ばれた翌月のことだった。

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