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オリジナル小説「秘密の八重歯」第三章 – 14

明かされた賭博師の意外な素性

3つの銀行の現金輸送車の追尾は、主に給料支給日である25日に行われた。当初、センパイOがターゲットにしていた府中の東京競馬場の現送車は、早い段階で候補から外された。

 

現送車を襲撃するには、輸送ルートが人目の多い道であること、ダービー当日は朝から見物客が行き交っており、犯行現場を多くの人物に目撃されるリスクが高いこと、競馬場のすぐ近くに、警視庁の府中警察署(少年Sの父親が所属する第八方面本部のある警察署)があり、検問が緊急配備されるまでの時間を稼ぎづらいことなどがその理由である。

 

3つの銀行をマークするうちに、ターゲットとして浮上したのは日立製作所と東芝府中工場の現金輸送車だった。共に、周辺の企業としては規模が大きく、現送車で運ばれるジュラルミンケースの数も同程度だ。しかし、現金輸送ルートを比較すると、日立製作所は銀行からの距離が近すぎる上に花沢通りの人通りが結構多い。現送車が出発する時間帯の9時過ぎは、製作所の前を通る出勤者の数も多いことから、ターゲットは東芝府中工場に絞られることになった。

 

東芝府中工場(左手前)「毎日新聞・夕刊 1968年12月10日」より

 

こうした作戦を指揮するセンパイOは、ノエルと少年Sから見ればただの賭博師には見えなかった。ある時、彼の素性に関心を抱いていた2人はそのことについて質問すると、Oは過去の自分の職業について口を開いた。飲んでいたビールがまわってきたこともあったのかもしれない。

 

「オレはなぁ・・元は警察官だったんだよ」

それを聞いたノエルとSは、驚いて顔を見合わせた。

 

「だけどな、警官になる前からオレは博打が好きでね。ある時、酒場で野球賭博をやってる現場で現行犯逮捕されちまったんだ。賭けてる額も大きかったし、賭博師の間でもそれなりに知られた店だったから、刑事が数カ月前から張ってたんだな・・オレは常習犯として検挙されるところだった」

 

Oは時折見せる、遠くを見つめるような目で話を続けた。

 

「しかし、現役の警察官とくりゃあ…ブンヤに嗅ぎつけられでもしたら大問題になりかねないだろ? それで、賭博情報を売る代わりに罪を免除するから、依願退職するようにと上司に言われてな・・やむなくそれを受け入れたというわけさ」

 

その話を聞いて、少年Sにはピンとくるところがあった。Oの目つきや口調に警察官特有のクセがあったからだ。父親が白バイ警官だったことから、その2人に共通点を感じたことが何度かあったのだ。しかし、一度は警察官になった男である。日本警察の捜査と組織力に対しての恐れは無いのだろうか。その疑問を向けたところ、Oは余裕の笑みを浮かべながらこう言った。

 

「オマエらに言っておくが、警察の操作力は半端じゃない。あいつらは、ちょっとでも臭いところは徹底的に調べてくる。だが、盲点はないわけではない。その操作力を逆手に取るのさ。オレたちが踏もうとしてるヤマはでかい。しかも、ニセの警官が犯人だったとすれば、日本中が騒然となるのは間違いない。警察は総力を上げて捜査に当たるはずだ。だが、捜査の規模が大きくなればなるほど情報が錯綜して迷宮になる率は高くなる。初動捜査の2、3カ月さえ凌げば、あとは時効を待つだけだよ」

 

それを冷静に聞いていたノエルが聞いた。

「その2、3カ月を凌ぐには、何をすればいいんですか?」

 

Oは、待ってましたとばかりにその質問に答えた。

「捜査を混乱させるような種をたくさん撒いておくんだよ。オレたち3人しかいなくても、用意周到に準備をすれば、捜査撹乱のための種を撒くことはそれほど難しいことではない」

「例えば、どんなことですか?」

 

「うん、それについては今度会った時に話す。それより、オレの方から一つお願いがある」

「何ですか?」

 

「お前ら、発煙筒というのを知ってるか?」

「いや、知りません」

 

「じゃあ、最近起きた金嬉老事件のことは知ってるだろう?」

「はい」

 

「つまり、金嬉老がやった犯行によって、今の世の中はダイナマイトに対して恐怖を抱いている。そこで、発煙筒を使ってそれをダイナマイトに見せかけたときに、周りの人間がどういう反応を示すかをテストしてもらいたいんだ」

「どうやってそれを行うんですか?」

 

「発煙筒を使った小さなヤマを踏んでほしい。あまりニュースにならないよう、狙うのはスーパーなどのありふれた対象だ。誰も傷つけずに実行し、被害額も小さなほうがいい」

 

ノエルとSは、顔を見合わせたもののしばらく黙っていた。先に口を開いたのはSのほうだった。

「実行そのものは可能です」

 

Sの発言に対してOは、すかさずこう言った。

「だが、お前ら2人はそれに関わってはいけない。グループの手下にやらせないとだめだ。それはできるか?」

「できます」

 

即答したのはノエルだった。自分が備えている能力を使えばそれは簡単なことだ。立川グループのメンバーに話をして、その犯行を脇でコントロールすることさえできれば、彼にとってその犯行は朝飯前だったからだ。ノエルの力強い返事を聞いたOは、満足したように目を細めてからこう言った。

 

「次に会った時に、スーパーの襲撃結果を教えてほしい」

Oはそう言って立ち上がると、2人を見送ってから煙草に火を付けた。そして、煙を吐き出したあとで、独り言をつぶやいた。

「“こっち”の思い通りに事は運んでいる」

 

Oは、居間から見える庭木と、橙色に広がる空を見ながら、大きく吸い込んだ煙を吐き出してから煙草の火を消すと、さっきまでノエルたちが座っていたソファに横になって昼寝をした。

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